『トーマの心臓』
『トーマの心臓』
『トーマの心臓』は少女漫画では最高峰のひとつ。原作は萩尾望都。1974年に『週刊少女コミック』で連載、ドイツのギムナジウムを舞台に人間の愛という普遍的なテーマに挑んだ作品で、今でも絶大な人気を誇るロングセラーである。この作品の舞台化に挑んだのが劇団スタジオライフ、劇団員は演出家以外は全て男性で女性役も男優が演じる希有な劇団である。初演は1996年、以降繰り返し上演されてきたが、この2016年は上演20年目という節目の年にあたる。この『トーマの心臓』はもちろん、『訪問者』『湖畔にて』の一連の作品も連続上演する。キャストはユリスモールに山本芳樹、オスカーに笠原浩夫、エーリクに松本慎也、と劇団を代表する役者が顔を揃える。
原作の冒頭の言葉、有名な書き出し「ぼくはほぼ半年の間、ずっと考え続けていた……」ここはモノローグでシンプルに静かに、ここで観客は作品世界に入る。そして衝撃的な事件が起こる。トーマの死、照明がトーマを映し出し、列車の音が響き渡る。
シュロッターベッツ学院での学生たちは実に無邪気だが、トーマの死は彼らに影を落とす。いつもの日常、でもどこか暗い。そんな折、一人の転校生がやってくる、彼の名前はエーリク、元気で闊達な少年だが、見た目がトーマそっくり、ユーリスモールは動揺する。この2人を中心に物語は進行する。
原作をリスペクトした台詞、ひとつひとつの台詞に重みを感じさせる。萩尾望都が描く独特の空気感が舞台に充満する。コミックはコマ割も重要な要素だが、舞台でも原作のコマ割を彷彿とさせる緩急の付け方、初演から20年、このあたりはよく練れているなと感心させられる。ファンなら原作のシーンが思い浮かぶであろうところが随所に見られる。照明は抑え気味でギムナジウムの閉ざされた空間を表現する。思春期という”危うい季節”、悩み、傷つき、それでも時間は過ぎ、少年たちは成長する。周囲の大人たちもまた、様々な事情を抱えて生きる。すでにこの世にはいないトーマであるが、その存在感は圧倒的で、残された人々の心の中でトーマは皆に影響を与える。時折スクリーンに映し出される“日にち”、や“独白”そして教会音楽が作品世界に輪郭を与え、よりわかりやすくしている。ストレートプレイ故、ずっしりと心に響く。エピソードを大きくはしょることなくじっくり描いている。上演時間は休憩をはさんでおよそ2時間45分近くの2幕構成で、生と死、生きている者の宿命、様々なものを背負いながらも生きる。希望を感じさせるラストに一筋の光を感じる。
『トーマの心臓』『訪問者』『湖畔にて』
2016年2月24日〜3月13日
http://www.studio-life.com/stage/toma2016/
『トーマの心臓』
原作=萩尾望都 小学館文庫 (C)萩尾望都
取材・文/高浩美
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