【オフィシャルレポート】舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~、ついに開幕!
ゲネプロレポート
舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~が開幕した。本作は、シリーズ累計発行部数400万部突破の人気コミック「抱かれたい男1位に脅されています。」内で描かれた劇中劇を舞台化したもの。2019年に第1作が初演。2021年1月に続編である舞台「紅葉鬼」~童子奇譚~が上演され、今回はシリーズ第3作にして堂々の完結編となる。人と鬼との哀しき戦いはどのような結末を迎えたのか。初日に先駆けて行われたゲネプロ(最終通し稽古)の模様をレポートする。
舞台中央には大きな木。降りしきる雪の中、その木の下で小鬼が俯いている。そこに通りかかる、傘を差した若き日の経若。小鬼のすぐそばで父親と思われる鬼が倒れている。寒空の下、突っ立っている小鬼を捨て置けず、声をかける経若。この出会いこそが、すべての始まりだった。小鬼は、歳月を経て酒吞童子へと成長。父への憎しみを忘れられぬその心を経若に投影し、経若に帝を討たせようと策略する。
舞台「紅葉鬼」シリーズの大きな魅力は、その数奇な関係性が生み出す愛憎のドラマだ。第1作では、帝の子でありながら鬼の頭目として育てられた経若と、鬼の頭目の子でありながら人間として育てられた繁貞の因縁から、「人と鬼の共生」というテーマを炙り出し、第2作では人間たちへの復讐を誓う茨木童子との対決を通して「憎しみの連鎖」を描き出した。
そしてこの完結編では、「父と子」「兄と弟」「主従」「宿敵」など様々な関係を通して、長きに渡った宿命の物語に決着をつける。中心となるのは、経若と酒吞だ。酒吞にとって経若は生きる道筋を照らしてくれた人。その執心ぶりは、どこか愛に似たものがある。経若を仲間に引き入れたい酒吞は、背後から抱くようにしてその身を我がものにする。その光景は妖美ですらあって、艶やかにして麗わしい陳内将の経若と、荒々しくも寂しげな加藤将の酒呑に、一気に心を掴まれる。そこに、第1作以来の登場となる菊池修司の繁貞と育ての親である今井靖彦の維茂、同じ陰陽師でありながら対極の道を辿った小波津亜廉のイクシマと富田翔の保名など、それぞれの人間模様が幾重に織り込まれ、物語の幹をより太くする。
さらに、町田慎吾による絢爛豪華な演出がこの恩讐のドラマを華やかに仕立て上げている。生演奏を取り入れた音楽は迫力満点で、美鵬直三朗の和太鼓が観客の心を打ち鳴らし、後藤泰観のヴァイオリンがキャラクターの苦悩と悲哀を代弁。「紅葉鬼」らしい赤を基調としたドラマティックな照明や、随所に盛り込まれるプロジェクションマッピングが、血飛沫舞う人と鬼の決戦に風雅な格調を与えている。
小林由佳演じる雪熊、今村ゆり子演じる月熊、渡邊彩乃演じる花熊によるアクロバティックなパフォーマンスも鮮やかで、バトントワリングをベースとしたプレイは目を奪われる可憐さ。殺陣衆の立ち回りも勇ましく、日舞でよく用いられる「布晒し」を使ったアクションに、日本文化へのリスペクトを感じた。彼/彼女らによって織りなされる宴の光景は幻想的で、思わず鬼の里に迷い込んだ心地にさせられることだろう。
物語は、経若と酒吞の対決を経て「人と鬼の共生」という原点へ帰着する。テレビをつければ、目を伏せたくなるようなニュースが続くこの時代に、「人と鬼の共生」というテーマは決してファンタジーでも何でもないことを思い知らされる。人も鬼も、愛する者を奪われた憎しみが、復讐へと駆り立てる。そして争い続ける限り、この憎しみは終わらない。「憎しみの連鎖」を断ち切るために必要なものは何なのか。かつて鬼の頭目として人間を滅ぼすことしか頭になかった経若が、数多の戦いをくぐり抜け、辿り着いた境地にこそ、その答えが示されている。
舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~は5月8日(日)から5月15日(日)まで東京・シアター1010にて上演。初日公演および千秋楽公演についてはライブ配信&ディレイ配信も実施している。
<文・横川良明>
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