舞台『暁のヨナ』
舞台『暁のヨナ』
40周年を迎える『花とゆめ』(白泉社)で好評連載中の『暁のヨナ』、シリーズ累計330万部を突破し、2014年秋にはTVアニメ化される人気作、原作は草凪みずほ、この3月に待望の舞台化を果たす。何不自由なく育った高華国の王女・ヨナは優しい国王に大切に育てられ、従兄のスウォンに想いを寄せる幸せな毎日を送っていた。しかし、ヨナの16歳の誕生日の深夜、宮廷内で思いがけない事件が起こる。父である国王イルが、なんとスウォンによって殺害される。しかもヨナはその現場を見てしまい、城にいられなくなる。護衛のハクと共に城を追われ、神宮イクスのお告げに従い 伝説の四龍を探す旅に出る。世間知らずなヨナは様々な試練に会い、己の無力さと無知を思い知り、ハクや周囲の人たちに助けられながらも、逞しく成長していく。ヨナを取り巻くハクを始め、周囲の人々もヨナの純粋な想いを知り、ぶつかり合いながらも共に成長していく、といった内容だ。
こういった物語のパターンは他にもある。これは貴種流離譚とも呼ばれ、若い神や英雄があちこちを彷徨いながら試練を克服し、尊い存在になるという説話の一類型であるが、こういった物語はエネルギーに満ち、共感を得やすい。また、古くはギリシャ神話や日本の神話にも見られる。高貴な血族に生まれ、本来なら高い身分につくはずなのに、”忌み嫌われて捨てられた”あるいは”望まれない継承者(王子・王女)”といった不遇な状況でも旅や冒険等で正義を発揮し、自身も成長するといった話型を持つものがある。SF・ヒロイック・ファンタジー小説では、この『暁のヨナ』の他に『グイン・サーガ』『アルスラーン戦記』等もこの話型である。
今回舞台化される部分は単行本で14〜16巻にあたる『水の部族編』、水の都に辿り着き、闇商人の売る麻薬が蔓延して多くの人々を苦しめていることを知ったヨナは、ハクや四龍、 そして水の部族長の娘リリと共に戦う。
まず、物語を知らない観客のための導入があり、ここで何故、ヨナが国を追われたのか、ヨナとハク、四龍等の関係をスピーディに提示、ドラマチックな楽曲が冒険譚を盛り上げる。それから物語が動く、という構成だ。わかりやすい導入、すんなり『暁のヨナ』の世界に入っていける。ヨナたちは水の都にたどり着くが、人々は麻薬に侵されていた。コミックのエピソードは基本的にほとんど省略はしていない。ヨナ役の新垣里沙、小柄でキュートな印象、ヨナの懸命さと新垣里沙の持ち味が上手くシンクロ、アクションもこなし、健闘。ハク役の松下優也、ぶっきらぼうで、愛想のない、しかし深い愛情を持つキャラクターがよく似合い、大刀を振り回して作品を盛り上げる。四龍、キジャ役の北村 諒、ジェハ役の木村達成、ゼノ役の橋本祥平、シンア役の鷹松宏一、高い身体能力を生かし、”人間じゃないけど、心温かい妖怪(ユンの言葉を借りると[妖怪])”、ファン納得のキャラクター構築。木村のキックの打点の高さは芸術的。もちろん、リスのプッキューもキュートに登場。コミックなので時々、クスリと笑える部分があるが、そういうところもキッチリと表現し、楽しく、飽きない。純粋に14〜16巻を舞台化している訳ではなく、ところどころに過去エピソードを差し込む。16歳の誕生日にスウォンから可愛らしいかんざしをもらい、幸せの絶頂にあったが、愛する父を愛する男性に殺害されるという過酷な状況、ハクはそんなスウォンを許せるはずもなく、図らずも再会し、怒りとやるせなさが爆発する。その怒りを松下が的確に演じる。スウォンもまた、自分を慕っていたヨナと会い、心揺れる。”国のため”に前国王を殺害した自分の所業、ヨナを亡き者にしなければいけない立場、しかもヨナを殺そうと思えば出来たはず、しかし、本当は心優しいスウォンには出来ない。その苦しみ、切なさを碕理人が体現する。
ラスト近くの戦いの場面は見せ場、俳優陣が大奮闘、息もつかせぬ殺陣、アクションはもう目が離せない。アンサンブル陣も大汗かいて大熱演、ダイナミックかつ立体的な動き、殺陣指導は奥住英明が担当。リリとヨナの間に確かな友情が芽生え、ヨナは仲間と共に都を去ることになる。エンディングではヨナとハクの後方に大きな虹がかかる。いつになったら国を取り戻すことが出来るのか、ヨナにもハクにもわからないが、その虹は彼らにとっては希望の印だ。ヨナたちの冒険は終わらない。
なお、開演前、早めに席に着くことをオススメしたい。キャストが客席を回るので、ここはお楽しみポイント、何か話しかけてくることもあり、開演前のアナウンスもちょっと笑えるので、よく耳を澄まして!
■キャスト
新垣里沙 松下優也 北村諒 木村達成 橋本祥平 鷹松宏一 小野一貴 三輪紋子 片瀬成美 瀬都ちひろ 樋口裕太 三浦知之 碕理人 他
舞台『暁のヨナ』
2016年3月16日~3月21日
EX シアター六本木
※3月21日公演終演後、新垣里沙とX4のアフターライブあり。
イメージソング『月の光』と『誓い』を歌う予定。
http://yona-stage.jp
© 草凪みずほ/白泉社・舞台『暁のヨナ』製作委員会
撮影/洲脇理恵(MAXPHOTO)
取材・文/高浩美
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