【オフィシャルレポート】舞台『sublimation-水の記憶-』開幕レポート
舞台『sublimation-水の記憶-』開幕レポート
坂本康太、橘希ら若手俳優陣の熱演が巧みな脚本と演出と絡み合う、想定外な世界へ誘う快作舞台『sublimation-水の記憶-』。
スチームパンクと現代社会を示唆する哲学がミステリ・エンタメとして見事に融合!
若手俳優が大挙出演する舞台『sublimation-水の記憶-』のゲネプロが、シアター風姿花伝にて初日上演直前の1月30日14時より行われた。
出演は2015年初演のハイパープロジェクション演劇『ハイキュー‼』や『トランジット・コメディアンズのコント集~2018・夏~』など幅広く活躍中の坂本康太、ドラマ『デスノート』や舞台『ダイヤのA The LIVE』の橘希、『雨宿りにコーヒー』の騎田悠暉(TOKYO流星群)、舞台『レンアイドッグス』の尾崎礼香、映画『未来夜曲』の坂本真一をはじめ、荘司真人、柚木美咲、井上紗綾、琉河天、小原良太、岸本尚子、菊地英登、古郡勇斗、俵頭ちさき、秋津有里、そしてTV『絶対零度未然犯罪潜入捜査』や舞台『インフェルノ』などの新田健太といった総勢16名による布陣。
演出・脚本は、俳優兼演出家として多くの舞台で活躍中の福地慎太郎。
舞台は、張り巡らされたパイプのそこかしこから蒸気が噴き出すスチームパンクな街・九龍。今、政庁はこの街の解体を決定し、住民は激しい反対運動を展開している。
そんな中、九龍の街の地図を作るべく現れた山野広志(坂本康太)は、地元の生徒会長ルー・ウェンヤン(橘希)と出会う。
今や排他的な空気に包まれた街も、そこに住む人々の想いまでも、すべて記号と線で割り切るべく記そうとする山野。
それに対し、ウェンヤンは曖昧なものを愛し、「私の身体の60%は世界で最も曖昧な物質で構成されているんです」と告げる……。
この「60%」の物質が「水」であり、即ちそれが本作のモチーフになっていることは、この序盤ですぐに理解できる。鉛色のパイプなどをあしらえた舞台美術、澄み渡る音楽、時折上空から轟くスチームジェットの衝撃音なども、巧みに観客を自然と「水」の意識へと誘ってくれる。
その一方、割り切りたい男と曖昧でいたい女の対峙は、これまでも、今も、そしてこれからも永遠に続くであろう「白黒つけるべきか否か?」といった社会の諍いを見事に象徴している。それは同時に、今や世界中で緊張が高まるのみの国際社会を痛感させる現代性を帯びたものへと見事に示唆されていくのだ。
冒頭をはじめ、時折壇上で独白する山野の立ち姿は、頭上から降り注ぐ照明の妙も手伝い、人生の真実を見出そうと内面ではもがき苦しんでいる哲学者のよう。だが、街の人々との交流などにはユーモラスな情緒を湛えていることで、この主人公のピュアな魅力が伝わってくる。
しかも本作はこの後、ウェンヤンを最初の被害者とする連続通り魔事件が勃発に伴い、犯人捜しのミステリ劇と化していく。それに応じて山野は、あたかも探偵のようなスタンスへと変貌していくのが面白い。
また衝撃の真相も含めて、ドラマはこの後二転三転しながら、意外なまでに予想もつかないどんでん返しを繰り広げていくが、あたかも水が流れるがごとくその展開はスムーズで、見ている側は心地よくそのリズムの波に乗せられ、引き込まれていく。
ゲネプロということもあり、荒削りなところもあるが、若手らしい勢いが感じられる。
いずれにしても本来のモチーフである「水」は、割り切りと曖昧がもたらす哲学と現代的要素と謎ときミステリを違和感なく絡み合わせながら機能し続け、見事に大団円へと着地する。
水は「固体」「液体」「気体」と変化する物質ではあり、そのことを大きなポイントに置いていることにも溜飲が下がる想いではあったが、この結末は劇場で体感してほしい。
総じて男たちが良くも悪くもピュアな言動に終始しているのに対し、女たちはどこか謎を秘めており、それが双方ともにいつしか狂気すら感じられるようになるあたり、鳥肌が立つほどのカタルシスを覚えてしまった。
若手俳優らの熱意と、予想だにしない巧みな展開を示す脚本とそれに応じた演出、シーンごとのツボを押さえたスタッフワークと、すべてが心地よいまでの相乗効果をもたらした快作であった。
<主演:坂本康太コメント>
舞台『sublimation』は僕の中で”挑戦”である作品です。脚本・演出の福地さんの持つ独特な世界観の作品となります。この作品を通じて、福地さんからその場に生きる大切さ、言葉を届ける重要さ、それを改めて再認識させていただきました。それが観に来てくださる方々にも届くと嬉しいです。全9公演でただの1週間にはしたくないと思います。僕の中でも、皆さんの中でも、記憶に少しでも残る作品になるように精一杯気合い入れて座組全員で頑張ります!2月3日までですので劇場まで足を運んでくださると嬉しく思います。ぜひお待ちしております。
取材・文:増當竜也
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