【3.0レポート】ミュージカル「DAICHI」ー愛とともに生きる人たちへー
この物語に登場する人々は全て“良い人”である。信念を持ち、こだわりがあるからこその“対立”。タイトルロールにもなっているダイチはほぼ舞台に出ずっぱり、傍観者的ではあるが、単なる傍観者ではない。その存在は妖精的ではあるが、妖精ではなさそうだ。ダイチが生まれて4年後、あんなに元気だったダイチは突然、この世を去る。母が大声で子供の名を叫び、慟哭する。その様子を見ているダイチは常に家族のそばにいる。彼の肉体はなくなってしまったが、その魂は家族と共に……いや、実は幕が開いた瞬間からその魂は家族を見守っている、生まれる前から、である。この設定はファンタジックであるが、ここは観客の想像力と自由な解釈に委ねられるところ。
息子を失くし、哀しみに囚われていた早苗は友人から一冊の本を受け取る、「ありがとう」の言葉を言う、何回でも。「ありがとう」が落ち込んで深く沈み込んでいた早苗の心にひとすじの光を与える。何気ない言葉かもしれないが、そこには計り知れない煌めきがある。言葉で傷つけ合ってきた家族が、この「ありがとう」の言葉で少しずつ変化していく。実話がモデルの物語だけに、説得力を持って観客に語りかける。哀しみと怒りが薄らいでいく過程は美しい音楽に彩られ、感動的で感涙するところだ。
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