【レポート】「ヴァルプルギスの夜」
4月17日にBe Withプロデュースの第29作品目の舞台「ヴァルプルギスの夜」が新宿シアターサンモールで幕を開けた。
2008年11月に2週間上演した「バタフライ・エフェクト―THE BUTTERFLY EFFECT―」から、現在「CHRONICLE(年代記)」として、これまで植田圭輔、鈴木拡樹、南圭介など多くの俳優が出演している人気シリーズである。
今作ではミュージカル「テニスの王子様」で丸井ブン太役を務めた紅葉美緒、「アルカナ・ファミリア ~Valentino~」リベルタ役の大島崚、「DIABOLIK LOVERS」レイジ役の髙﨑俊吾、ミュージカル「テニスの王子様」黒羽春風役の進藤学、同タイトル・石田銀役の山内圭輔など舞台だけでなく、テレビや映画など多方面で活躍する俳優が多数出演している。
作品の舞台である”モルグの町”の住人の過去や未来を綴りながら、全シリーズに共通するキーワードやキャラクターを連動させて物語の世界観を増幅させ、回を追うごとに新しい物語で観客を幻想的な世界に誘い込む。
雨のよく降るモルグは、記憶を食べる魔女が森に現れるという伝説が未だに残る町。
昔の記憶がないオーディン(紅葉美緒)は依頼人の記憶を標本にし、思い出を永遠に鑑賞できる標本屋を営んでいた。オーディンはある雨の夜、旅人のバッフル(大島崚)とカシア(髙﨑俊吾)に出会い、なりゆきで自宅を宿として提供することになる。彼らはある書物の探索を彼ら一族から託され旅をしているのだと話す。その本は人間を惑わす禁断の書物。一刻も早く見つけたいが、なかなか手がかりがつかめない。焦りが二人の絆を徐々に引き裂いていく……。
一方、町では近々祭が開かれ、その準備に余念が無い。そんな中、行方不明者が多発する奇怪な事件が立て続けに起こる。オーディンの友人・シグルズ(山内 圭輔)は兄のガウト(進藤学)が町中大混乱している時期に夜な夜な怪しい集会に参加していることに心配している。本人は気にする様子もなく、心配ないと周りを説得するが、やがて事件は思わぬ方向に向かっていく。
暗がりの中で昔の記憶を探すオーディンが、内側に秘められた想いを独白するシーンで見せる表情、仕草の一つ一つにキャラクターに対する熱量が詰め込まれていて目を離すことができない。
また、バッフルとカシアの他愛無い掛け合いも注目だ。クールな役を演じることの多い髙﨑と活発な役を演じることの多い大島のイメージが逆転し、少年らしさの残る無邪気な役を髙﨑が、知的でクールな役を大島が演じる。これまでの二人のイメージと異なる演技や共演経験の多い二人が繰り広げる息の合ったやりとりは緊張感の続くストーリーの中でいいアクセントになっている。それ以上に、テンポよく笑いどころを差し込んでいく進藤の小気味いい演技が加わり、誰もが共感できるヒューマンドラマの深みがより一層増してくる。
幻想的な世界観を土台に、人間の愛情や絆、そのすれ違いを丁寧に描き、人のもつ生々しい感情をリアルに表現している。大切な物、大切な人をなくしたせつなさ、虚しさと同時に、自分の存在という根源的な問いに大胆に切り込むストーリーは二つのENDで完成を見せるのかもしれない。
紅葉は「今作は、シリーズの一番初めの時間軸の作品なので、前作をご覧になった方は、たくさん詰め込まれている“聞いたことのある言葉”に気付かれるかもしれません。細かいところまでよく見て頂けたら嬉しい」と語り、大島は「2つのバージョンでは役作りもカシアとの関係性も変わってくるので、バッフルとカシアのやりとりをしっかりご覧頂きたい。もし両方観て頂けたら色んな発見があると思います」とアピールした。
髙﨑は「☆バージョンの最後に初めてこれまでの謎が解かれる“種明かし要素を含んだ展開”と、★バージョンの、シーンごとの伏線の張り方、それらがどう繋がっていくのかという二種類のお芝居を見て頂きたい。すこし難解なお話なので、2回3回観て頂いて物語を全身で感じてもらいたいです」と想いを語り、進藤は「ダークな世界観でなんとなく笑っちゃいけないのかなという空気を出していますけれど、要所要所で笑うポイントを用意していますので、皆さん笑うところはしっかり笑って、しんみりするところはしっかり観て頂きたいです。笑うとハッピーになりますので、脳ミソをどんどん動かしましょう」とその場を笑いで締めくくった。
今作は二つのエンディングが用意されている。
同じキャラクターを演じてはいるが、エンディングによって言動の一つ一つが微妙に異なってくるという。
ぜひ、この独特なダークファンタジーの世界に一度足を踏み入れてみてほしい。
『ヴァルプルギスの夜』
日程:2016年4月17日(日)~24日(日) 全9回公演(結末2ver.)
新宿シアターサンモール
作・演出:凌崎イサミ
出演:紅葉 美緒、大島 崚、髙﨑 俊吾、山内 圭輔、野田 一馬、坂本 優太、小川 北人、進藤 学
http://bewith-special.shop-pro.jp/
全席指定・当日券¥6,500(税込)
取材・文:公野研究室 喜多村太綱
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