【3.0レポート】『キンキーブーツ』
来日版であるが、最初のつかみ、劇場での諸注意「携帯電話の電源〜」のアナウンスをキャストが行う。ここで観客を笑いに誘う。最近の国内の舞台でも、この諸注意をキャストが出てきて行うようになったが、こういったちょっとしたサービスは心憎い。それから“本編”に入る、という趣向だ。
とにかく音楽が全てが素晴らしく、耳に残る。楽曲はシンディ・ローパー、“ミュージカルはこうでなくちゃ”の王道だ。外見や性別にとらわれないで手を取り合って生きていく、言葉で言うのは簡単だが、それがなかなか出来ない。そういった紆余曲折を経てのクライマックスは感動的だ。自分の中に染み付いた偏見やコンプレックス、親からの呪縛など、我々は実に多くの事柄に縛られている。それらを全て取り払うことは出来なくても意識を改革することで新しい景色が見えてくる。主人公であるチャーリー、ローラ、彼らを取り巻く人々、皆、大なり小なり、自らの中に革命を起こす。チャーリーはローラと出会い、工場の従業員たちとぶつかり合う等を経て自分の中に革命を起こす。ローラもまたチャーリーと関わることによって変わっていく。この2人、見た目は全く真逆だが、共通点を持っていた。それは親、特に父親からの期待に答えられないことであった。葛藤し、苦悩し、やがてありのままの自分でいいことに気づき、受け入れる。そんな2人の存在と行動が周囲の人々の心を動かしていく。チャーリーの幼馴染みのローレン、工場に勤めるちょっと“ジャイアン”的キャラクターのドン等、自己の中で意識革命を起こし、いままでとは違った景色や自分を発見する。そういった過程を実にドラマチックにみせてくれる。力強いメッセージ性、このミュージカルが今、世界中で上演されているのも頷ける。笑いも涙も、あらゆるものが詰まっている『キンキーブーツ』、カーテンコールは観客総立ちだ。
レベルの高い俳優陣、ダンス、歌、特に工場のベルトコンベアーに乗って踊り歌うシーンは楽しくも圧巻で、瞬きしたらもったいないくらい。ラストの大団円は無論、大盛り上がり!笑いも涙も、そしてちょっと考えさせられての2幕構成、ミュージカルの歴史に残る名作、観て損はなし!
【公演データ】
『キンキーブーツ』
<東京公演>
2016年10月5日〜10月30日
東急シアターオーブ
<大阪公演>
2016年11月2日〜11月6日
オリックス劇場
撮影:田中亜紀
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