残響のテロル

PREMIUM 3D STAGE「残響のテロル」

 2014年に放送されたテレビアニメ『残響のテロル』は完全オリジナルストーリーで監督は渡辺信一郎、音楽は菅野よう子のコンビが手掛けた話題作だ。これが舞台化、しかも3D映像を使用するという。アニメのキャッチコピーは『この世界に、引き金をひけ』。放映当時、その衝撃的な内容で話題となった。
 青森の核燃料再処理施設で、2人の人物によってある物体が強奪される。強奪犯の一人は、施設の床にスプレーで「VON」という謎のメッセージを書き残し、2人は施設を脱出する。強奪された物体は小型原子爆弾であった。それから半年後、夏休み前の暑い日に2人の少年がある高校に転校してくる。名前は九重新(ナイン)と久見冬二(ツエルブ)、周囲の注目に目もくれず、ある計画を進めていた。2人はこの転入先で一人の女生徒が気になっていた。他の女生徒から虐められていた少女の名は三島リサ。幼少期に脱出した施設に残してきた幼馴染みにどこか似ていたからであった。数日後、元警視庁捜査一課刑事で、現在は文書課でさしてすることもなくぶらぶらしている柴崎健次郎は前の日に見たスピンクス1号・2号と名乗る2人の若者の犯行声明が気になっていた。そして動画の予告通りに東京で大規模な停電が発生、そして都庁で大爆発が起こる。これはナインとツエルブの仕業であった。ところがリサに目撃されてしまったことからナインはリサに「ここで死ぬか、それとも共犯者となるか」と迫り、リサは共犯者になることを選ぶ……。
 舞台の出だし、よく見る資料映像、広島、長崎の原爆投下シーンが映し出される。3D映像の文字(英文)がかぶさるのだが、淡々と、しかし一種のリアリティを持って迫ってくる。日本は世界で唯一、原子爆弾が投下された国であることを再認識させてくれる。その後、アニメと同じ、核燃料再処理施設での強奪シーンに変わる。2人組の犯人はスプレーで「VON」のメッセージを残すのだが、それが3D、眼前に文字が迫る。そこからタイトルロール、テーマ曲が流れるが、アニメを視聴していたファンはこれから起こる物語は先刻承知だ。学校のシーンは穏やかで、ナインとツエルブはクラスメイトに虐められるリサを見かけ、声をかける……。
 基本的に原作アニメに沿った内容であるが、舞台は上演時間の制約があるので、アニメより短い時間で語らなければならない。そのため、エピソードをはしょりつつの構成になるのだが、アニメよりしっかりと時間をかけて描いているところもあり、全体としてわかりやすい。アニメではアテネ計画は断片的に語られていたが、舞台版ではより具体的に施設でどういうことが行われていたかを、3D映像を駆使しつつ、観客に提示する。新薬を投与された子供のうち、身体が耐えきれなくなって死亡する様子等が描かれており、幼いナインとツエルブ、ハイヴがいかに過酷で希望のない状況に閉じ込めれていたかがよくわかる。しかも脱走シーンは映像の迫力も相まって衝撃的、泣き叫ぶハイヴを置いて逃げなければならなかった2人の気持ちを考えると胸が痛くなる。
 彼らを追う警察の人間関係もまた、よりクリアーに、特に柴崎と倉橋の関係性、同期で柴崎は倉橋も一目置く程だったが、ある”事件”がきっかけで柴崎は閑職に回され、倉橋は順調に出世している。職場ではややぎくしゃくした関係になっているものの、本当はお互いにリスペクトしあっているのが、やり取りや空気感でわかる。また、ハイヴはナインには並々ならぬ対抗心を燃やすが、幼馴染みに会えた懐かしさもそこはかとなく感じられる。もっと平和な状況で会えたらよかったのに、と思うとこの”再会”は2人にとっては残酷だ。
 主演の松村龍之介、複雑な感情を持つナイン役、キャラクターの輪郭をはっきりとさせつつ、ちょっと謎めいた感じを匂わせつつ好演。ナインが”陰”なら対するツエルブは”陽”、明るく笑い、陽気に振る舞うが、心の奥底にある翳りも表現、石渡真修が健闘している。リサはアニメより闊達なイメージ、リサと2人の人間関係のバランスが絶妙、リサを演じるのは桃瀬美咲で、アニメのイメージを踏襲しつつ、ちょっとお茶目な役作り。柴崎演じる滝川英治と倉橋役の郷本直也、息のあったやり取り、アニメと同役、かぬか光明演じる六笠はコメディリリーフ的で、ポン・デ・リングのギャグが楽しい。ハイヴも同じくアニメと同役で潘めぐみ、もはやハイヴにしか見えないというハマりっぷりで流石の芸達者ぶりを見せる。
 『残響のテロル』は様々なテーマをはらんでいる。戦争、原発、政治、国際関係、そして描かれている人間関係、考えさせられる部分が多い作品であるが、こういったことをきっちりと観客に発信する。舞台では3D映像を駆使しつつ、その世界観にすんなり入っていける工夫、重いテーマで悲劇的なあっけない顛末ではあるが、一筋の光がある物語、ラスト、リサは柴崎に「VON」の意味を言う、「希望」と。昨今、重苦しい話題が多いが「希望」を忘れてはならない。ずしりと重いがエンターテインメント性も感じられる良作となっていた。
 

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PREMIUM 3D STAGE『残響のテロル』

2016年3月2日~3月6日
Zeppブルーシアター六本木
http://www.negadesignworks.com/terror/

撮影/洲脇理恵(MAXPHOTO)
取材・文/高浩美

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