【3.0レポート】「Yè -夜-」
北村諒のクールな佇まいと、ちょっと突き放した物言いが水仙の心のざわめきや寂しさを感じさせ、松村龍之介演じる夜来香は時には感情をむき出しにして苛立ちややるせなさを見せる。谷口賢志演じる刺は粗暴で暴言も吐き、威圧感たっぷりだが、そのドスの効いた声からは一抹の寂寥感が漂う。
非日常の空間、妖しさを感じさせる照明、しかし、この“街”ではこれは“日常”、きっとこういったことはさして珍しい出来事ではないのだろう。日常からこぼれ落ちた“非日常”にうごめく感情、それは決して風変わりな感情ではない。嫉妬、友情、苛立ち、愛、閉塞的でありながらも、ほんの少しの光も見え隠れする。自分という人間の存在意義を確認する、いや確認出来ているのかはさだかではないが、ほんの少しだけ、淡い光を感じる。ラストは再び「夜来香」の歌が流れる。水仙と夜来香が寄り添う。この一瞬の風景がこの2人の心情と重なり合う。静かに、心穏やかな2人の寄り添う姿には、温かいものがにじんでいる。
※「夜来香」……この歌は1944年上海にいた山口淑子(当時の芸名:李香蘭)が百代唱片公司からリリースし、中国全土でヒットした楽曲。日本では1950年に山口淑子名義で日本語歌詞を付けてリリースされている。戦後、中国政府は日本の中国進出のプロパガンダとして「夜来香」を禁止歌とした。しかし人気は根強く、そして時代が開放政策に変り、今では愛国的な歌として評価されている。作詞作曲は黎錦光(レイキンコウ)。劇中で使用している「夜来香」は李香蘭が歌唱。
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。