【3.0レポート】ムッシュ・モウソワール第2回来日公演『レッド・ジャケット』

ムッシュ・モウソワール第2回来日公演『レッド・ジャケット』

舞台『弱虫ペダル』等の演出で知られる西田シャトナーの脚本・演出のフェイクコメディシリーズ、今回で第2回目を迎える。出演するのは“フランスで発祥した歴史ある由緒正しき妄想演劇を日本語の堪能なフランス貴族たち”、この設定はチケットを購入した時点から始まっている。

舞台中央には正方形の台がしつらえてあり、その上にはワインが入った木箱が5つ置かれている。背景も何もなく、これだけだ。前説は滝川英治伯、この前説の最中に次々とマントを纏った貴族たちが舞台に登場する。再び、来日出来たことを喜ぶ貴族たち、木箱の中のワインを取り出して、観客に見せる。妄想で熟成して飲み頃になる、というシュチュエーションでことを説明する。そして少しづつ”本編”に入っていくという趣向である。

「壁がある!」と言い、マイムで壁があることを表現し、囲まれている状況を説明する、「例えるなら、バームクーヘン」等この”例え”が絶妙に可笑しいのだが、納得してしまう”例え”で、ここからクスクスと笑える。そして着ていたマントを脱ぐ、皆、赤い上着を着用している、そしてタイトル『レッド・ジャケット』と全員が声を揃えて言う。いよいよ、妄想演劇の幕開きである。「例えるなら……」この”例えるなら”を皆連呼する。例えにすると、物事が具体的になってイメージしやすくなるが、観客もその例えをイメージし、貴族たちが演じる妄想の世界に迷い込める。台本通りなのか、アドリブなのか、その曖昧な印象の台詞が妄想を超える、いや、観客が妄想の世界に取り込まれてしまうのだろう、ぐいぐいと引き込まれていく。オラキオ伯演じる軍人が皆に防衛軍を再結成をしようと提案するも、その提案に腰が引ける4人。外にはめっぽう強そうな敵がいる、その状況での提案なのだが、いかにも辛そうなことをさせられる雰囲気で、そこまでの根性はなさそうな他のメンバー。軍人はバク転を披露(観客は拍手)、スパルタトレーニングをやらせようとして皆、露骨にいやそうな表情。そんなこんなのやり取り、スピード感あふれる台詞の応酬、状況は一向に好転しないし、5人は閉ざされた空間にとどまっているだけ。5人の思惑、やり取り、時にはけんか腰になったりして、少しづつ緊迫感が生まれてくる。妄想であるはずなのに、舞台には特に何かがある訳でもないのに、せいぜい5つの箱を積んだりして変化を持たせているだけなのに、舞台空間はそんな彼らをクローズアップする。いかにも物騒な物音、照明、少しづつ、混沌とした状況がクリアーになっていく。妄想の中のこの5人は一体何者なのか、徐々に明らかになっていく。

5人だけの濃密な空間、閉ざされている、という設定なので、”出たり入ったり”は一切なく、およそ90分、でずっぱりの状況だ。ここを出たい人、とどまりたい人、思惑が渦を巻く。挙動もいちいち面白く、テンションも高く、皆、大汗かいて演じるが、5人の芸達者ぶりも見どころのひとつで、皆、自分の持ち味を生かした動き、ここは気心が知れた出演者と演出家のコンビネーションの良さであろう。”成長した”とか”団結”とか”壮大なテーマ”はかけらもない。それでも共感出来たり、笑ったり、あるいは「どうなっちゃうんだろう」とドキドキがある。妄想には、何か人を魅了するエネルギーがある。

ラスト、妄想話が終わって木箱からワインを取り出して乾杯する。いい具合に熟成したようだ。

ゲネプロの前に囲み会見があったが、ちょっとゆるい雰囲気でスタート。

「今迄に見た事がない舞台です」と滝川伯、劇場のロビーで行ったのだが、オラキオ伯は天井を見上げて「この照明は何を意味しているのか」と”本編”とは全く関係ないことをコメントし、一同、大笑い。お互いにつっこみあったりして和気あいあいな貴族の面々。「演劇はお客様と一緒に作る空間です」と平野伯が言えば「あまり観れないお芝居です」と宮下伯がPR。西田伯は「宇宙には様々なものが存在している」とコメント。このすこぶるよい雰囲気、演劇は人が創るものであることを再認識させられた会見であった。

 

 

 

 

 

 

[公演データ]
ムッシュ・モウソワール第二回来日公演『レッド・ジャケット』
原作:シャトナー研『例えばなし砦』より
脚本/演出:西田シャトナー伯
出演:平野良伯、滝川英治伯、宮下雄也伯、佐藤永典伯、オラキオ伯
2016年5月11日~15日
草月ホール
http://monsieur-mausoir.com/

©ムッシュ・モウソワール第二回日本公演実行委員会

取材・文・撮影/高浩美

■過去リリース情報
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2.5news(編集部)

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