舞台『弱虫ペダル』~総北新世代、始動~

自転車競技を題材にしたコミック『弱虫ペダル』、2008年から『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて連載中、2016年1月現在43巻まで刊行されている。アニメ化よりも舞台化の方が早く、2012年に舞台化し、テレビアニメは2013年10月〜2014年6月まで第1期が、2014年10月〜2015年3月まで第2期が放送された。2015年は劇場版も公開され、テレビアニメも第3期の制作が発表になっている。
 前回公演は巻島・東堂にフューチャーした回になっており、その前の公演ではインターハイ3日目が描かれていた。キャスト表を見ると、3年生が卒業し、小野田たちは2年生に進級し、新1年生が入ってくることがわかる。また、今までの舞台版ではあまり描かれていなかった新3年生たちも登場する。幕開きでは全キャラが舞台に一堂に会するので原作を読んでいればどこらへんの物語になるかはおおよそ察しがつく。
 物語の出だしは小野田坂道が自転車で登校するシーンから始まる。学校の校舎でよく見る垂れ幕、スポーツで優勝すると垂れ幕がかかるが、坂道は自分の名前が大きく書かれている幕を見てあせりまくる。そこへ新一年生(鏑木一差と段竹竜包)が自転車で通りかかるが、坂道の顔は知らない。本人とは知らずに「凄いですよね〜」等と気軽に話しかけ、ますますあせりまくる坂道であった。ここは原作にもあるが、内気な坂道らしいエピソードである。ちょっとオドオド、お人好しで素直な小野田坂道を今回2回目の小越勇輝が演じるが、雰囲気が坂道そのもので、芸達者ぶりを発揮する。巻島を慕っていた坂道だが、巻島は突然イギリスに留学してしまったので、心ここにあらず、しかもインターハイで優勝してしまったので、プレッシャーも感じている。鳴子、今泉は相変わらずだが、”同士”である坂道が気になる。次期キャプテンは手嶋純太、インターハイには出られなかったが、3年生になり、今年こそは、と思う。
 舞台『弱虫ペダル』ならでは、ハンドルだけで自転車を表現するのは何度観ても”ミラクル”、本当に走っているように見えてしまうのは”西田マジック”だ。手嶋にとって才能あふれる後輩たちは頼もしい限りだが、同時に己の才能の無さを感じる。それでもキャプテンとしてチームをまとめ、自身もインターハイに出場するべくひたすら練習する。「俺は弱い」と言う。弱いから精進する、強くなろうとする姿勢、演じるは鯨井康介、力強い台詞にキャラクターの決意をにじませる。原作のエピソード、鳴子の帰省、峯ヶ山ヒルクライムレース、幼馴染みだった手嶋と葦木場の戦い、こういった部分はたっぷり時間をかけて描くことによって、キャラクター達をより真近に、迫力を持って感じることが出来る。時間は戻り、坂道たちの最初の合宿のシーン、手嶋、青八木は1年生3人に負ける。2人は改めて自身の才能のなさを思い知る。ここを厚みを持って描くことによって手嶋、青八木というキャラクター、観客にとってはリアリティと共感を感じさせてくれる。何故なら、才能のある人間はほんのひと握りで大半の人間は平凡、だがパッションと努力で輝くことが出来るのだということを教えてくれる。ここは原作本ではだいぶ前の部分、アニメでもとっくに描かれて箇所だが、ここのエピソードに戻ることによって新しくなった総北の可能性を感じさせる。新1年生レースに参加する新2年生杉元照文もまた才能のないキャラクターとして描かれ、結局負ける。「僕は経験者ですから〜」と言いつつも、清々しい。山本一慶が熱演し、共感しづらいキャラだった杉元を応援したくなる程の爽やかさだ。1年前のエピソードといい、杉本の負けっぷりといい、勝者より敗者にスポットを当て、あくまでも”競技”、勝者は1人、それ以外は敗者という辛い現実をみせる。しかし、観ている観客は辛くはならない。勝っても負けても前を見て進んでいくしかない、その気持ちだけで元気になれるからだ。
 全ての登場人物に見せ場があり、泉田の言葉を借りれば「全員がエース」、そう「全員が主役」だ。そして坂道は遠くの巻島に問いかける「僕はどうしたら強くなれるんですか?」と。勝っても負けてもその命題は解決されない。
 もちろん原作ファンには嬉しい”コネタ”も詰め込まれ、笑える部分もたっぷり用意されている。総北だけでなく箱根学園もまた上級生が卒業し、新しい部員が入ってきた。こちらも”始動”、キャプテンの泉田塔一郎は自信をみなぎらせ、京都伏見の御堂筋はさらに”進化”する。新キャラの葦木場拓斗、演じるは東啓介、本人の身長は187㎝だそうだが、物語の設定では2m2㎝、元々大柄であるが、登場の仕方が”巨人”、これは先々の”名物シーン”になる予感。楽曲は今回、ところどころに和太鼓を使用、力強さが倍増する。
 1幕もので上演時間は2時間10分強と長丁場だが、相変わらずのもりだくさんな内容でいつの間にかカーテンコールに。これも”西田マジック”、ラストは名物の『恋のヒメヒメぺったんこ』をキャストが一列になって踊る。なお、大千秋楽はライブビューイング、全国の映画館で鑑賞出来るのでこちらでも大いに体感したい。

 ゲネプロ前に会見があった。小越勇輝(小野田坂道役)、太田基裕(今泉俊輔役)、鳥越裕貴(鳴子章吉役)、鯨井康介(手嶋純太役)、植田圭輔(真波山岳役)、東啓介(葦木場拓斗役)、村田充(御堂筋翔役)が登壇した。

 初参加の鯨井は、「大変だぞ!と聞いていたが、稽古場に入ってみてこれほど汗をかくものかと(笑)。着替えが2枚、3枚あっても足りない!これだけ必死になれる作品は特別だなという思いで稽古をしていました」とコメント。もうひとりの新キャスト東啓介も「みんなで意見を出し合うのが楽しい。箱学のメンバーと話し合ってお芝居を作り上げていくのがすごく楽しくて、毎日充実していました」と、稽古場でみっちりやりきった様子。
 ”先輩”キャスト陣、太田はこの作品では最も”古株”、半分以上が変わり、しかも遅れての稽古合流で「どこの現場?」と思ったそう。「新鮮な気持ちで、新しいキャストの方々から勉強させてもらうところがたくさんある」と言えば、植田も「ホンマに”どこ?”と(笑)」そして「これが新生舞台『弱虫ペダル』だ!というのを届けたい」とコメント。新しいキャストが入れば稽古場の空気も変わる。平均年齢が24歳ということだが、村田が「僕がいなければ平均年齢は下がると思うんですが」と笑わせたが「若手にはまだ、負けたくない」と意気込んだ。村田の御堂筋はいつものことながら圧巻で”脱皮”シーンは必見。「まだ二度目」という小越は「“新世代”にはこれまでつなげてきてくださった先輩がたの想いや、作品の中での先輩たちの想いも詰まっていると思うので、そんな先輩方の気持ちを背負いながら次の世代や自分たちの世代に熱を与えて、ワクワクとドキドキを届けていけたら嬉しい」と熱いコメント。劇中の先輩も卒業したが、それを演じるキャストも当然のことながら”卒業”、演じる俳優も劇中のキャラクターも頼りになる先輩がいない状況であるが、ゲネでは立派な後輩ぶりであった。

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[公演データ]
舞台『弱虫ペダル』~総北新世代、始動~

東 京:3月4日~6日 TOKYO DOME CITY HALL
福 岡:3月10日~13日 アルモニーサンク 北九州ソレイユホール
大 阪:3月17日~21日 オリックス劇場
神奈川:3月25日~27日 KAAT神奈川芸術劇場

DVD/Blu-Ray発売決定
2016年7月13日
DVD/8,800円(税別)
Blu-Ray/9,800円(税別)
特典映像:バックステージ、千秋楽カーテンコール等
http://www.marv.jp/special/pedal/

撮影/高橋 薫
取材・文/高浩美

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