当日は朝から雨のぱらつくあいにくの天気。むしむしと暑く集客に不安もあったが、開演時間になると会場は400人を超える観客の期待に包まれた。
司会進行役のランズベリー・アーサーと本泉莉奈が登場すると会場から大きな拍手が巻き起こる。2人の進行で公演がスタートした。
最初の演目は落語。トップバッターは岡野友佑。期待感が高まって少々ピリピリとした雰囲気のある観客に向かい、柔らかでよく通る声と笑顔で、堂々としたつかみをはじめた。
その中で特に観客の笑いを誘ったのは、指導を受けている入船亭扇蔵師匠から教わった落語の楽しみ方だ。
「落語なんて本来くだらないものだから、肩肘張らずに楽しめばいいんです。たとえば……」と小話をひとつ。
「お前がキリストか?」「イエス」
客席から起こるクスクスという笑い声。一挙に客席の緊張が解けた。その息をつかんで続ける
「このように面白ければ笑う。……で、面白くなくても笑う。面白くないのに笑えるわけなんか無いだろって? 人は面白いから笑うのではなく、笑っているから楽しくなるんですよ。それを忘れずに聞いていただければと思います」
そう一礼して始めたのは『代書屋』よく知られたいわゆる定番の話であるが、柔らかな声・のびのびとした語りが観客を引きずりこむ。段々と勢いを増し、観客をブンブンとに引きずり回す台風のような一席。
続いて登場した蘭乃和佳子は『桃太郎』を一席。こまっしゃくれた子供を演じる可愛げのある姿に、笑い声が漏れる。岡野の勢いに振り回された観客達も蘭乃の可愛さに柔らかな笑顔になっていった。
役者が落語をやると過剰に演技してくどくなりがちなのだが、わずかに押さえの利いた両名の話芸に会場はしっかり心を掴まれた。
実演後、再び舞台に登場した岡野と蘭乃。拍手で応じる観客に感謝の言葉を投げると、映画の歴史と無声映画、今日の演目の主人公・笑わない喜劇王バスター・キートンの解説をして、次の演目の出演者を呼び込んだ。