物語の始まりはアドリア海沿岸のとある城塞都市から始まる。過去の記憶を失くしたリサ・マーチン(柚希礼音)は、食料調達に出かけた仲間たちの帰りを待っていた。周りを囲む“奴ら”から逃れ、命からがら戻れたのはたった 2 人、その片割れのマルコ(KYOHEI)が“奴ら”に噛まれていた。絶望が広がる中、唯一の生き残りロブロ(平間壮一)が、噛まれても生きている少女がエーゲ海の小島にいるらしいと告げる。医師ダン・ギブソン(渡辺大輔)はその少女の抗体から血清を作ることを提案。ダンとロブロ、空軍オタクのゼルグ(有川マコト)が小島へ向かうことに。出発の時、“奴ら”の目を逸らすため、音楽家ロベルト(海宝直人[東京公演])を中心に音楽祭が開かれた。3 人を上手く出発させたと思いきや、奴らは暴れ出して住民を襲う。リサとチャベス(横田栄司)がどうにか退治するが、 チャベスの愛息ジルマが噛まれてしまった。その戦いの最中にリサは自分の過去を感じる……。ジルマに2日以内に血清を打たなければ助からない!リサとチャベスはジルマをつれて小島を目指す。その途中、空軍基地でリサはモーリス・グリーン大佐(吉野圭吾)と 軍医ジョー・ナッグス(壤晴彦)から思いがけない自分の過去を知る…。果たしてリサたちは血清を手に入れ、世界を救うことができるのか?というのがだいたいのあらすじ。
幕開きはブリザードの激しい音、何故、地球はこんな世界になってしまったのかを見せる。それから一転してリサ・マーチンとダン・ギブソンが登場し、歌うが、全体としてミュージカルナンバーも多く、音楽が途切れない印象。実はダン・ギブソンはリサが失くした過去を知っており、リサもそれに薄々、気がついていた。そういった微妙な空気感を台詞のやり取りで醸し出す。絶望に覆われた地球、“奴ら”、予測不能な動きで不気味かつ哀しさを表現、“奴ら”に噛まれたら最後、まともな人間ではなくなる。しかし、かつては人間だった“奴ら”、元には戻れない、治らない。だから殺される運命にある。哀しくも儚く、それでいて危険だ。
『バイオハザード』には当然ウイルスがつきもの、目には見えない、不意に襲われるという恐怖感がある。この舞台は単純に恐いだけではない。根底はヒューマンドラマ、人にはそれぞれの信条と正義がある。悪人は出てこないし、皆、見えない敵と戦っている。そういったベースを歌や楽曲で彩る。そして俳優はそれを渾身の演技で見せつける。戦うヒロイン・リサの凛々しさ、思いやりにあふれるダン、乱暴だが、“漢”なチャベス、こんな非常事態でも飄々としたロベルト、リサを一途に想うロブロ等、キャラクターもはっきりとしており、感情移入しやすい。芸達者が集結し、そういったところはしっかり見せる。Special dancer YOSHIEのダンスのレベルの高さ、ところどころで登場し、様々なものを表現する。プロジェクション・マッピングのような最新映像を駆使すると思いきや、パネルを使ったアナログ表現、それが不思議と描かれている世界観に馴染む。