末原拓馬さんが主宰の『劇団おぼんろ』は、大人のための寓話を紡ぎ出すことを特徴とし、その普遍性の高い物語と独特な舞台演出技法によって注目を集めている劇団。
抽象舞台を巧みに用いるおぼんろは廃工場や屋形船、オリジナルの特設テントなど様々な場所でも公演を行い、どんな場所でもまるで絵本の中に潜り込んだようなエンターテインメントを紡ぎ出してきました。
そして本作は2年ぶりの有観客での、待望のオリジナル新作の上演となります。
末原拓馬さんは青いクラゲ、高橋倫平さんはワカメ海賊団、わかばやしめぐみさんはピンクのサンゴ、初客演となる塩崎こうせいさんがラッコを演じます。そして夢の海で大冒険を繰り広げ、数々の謎や思いが、心を宿した物語として繋がっていきます。
「海を盗んできた」
瓶の中に閉じ込められた海を見つめた初老の男性は、この少年に見覚えがある気がする。
「ベッドにつかまって」と少年は優しく叫んだものだから、男は慌てて従った。
瓶が床に叩きつけられ割られると、中から海は溢れ出し、ベッドは大海原に浮かんだ。少年は言う。
「お前を裁きの場に連れてゆかないといけない。」
「俺が何をした?」
「夏休みの宿題をまだ提出していないだろう」
「・・・いつの話だ?」
「小学5年さ」
「バカ言うな、俺は今年で59歳だ」
「なんてこった!だったら早く提出しなければならないな。さ、シーツを帆にして風を受けるんだ」
男は困ってしまった。
「今夜は眠り薬をたらふく飲んだ。せっかく、死のうとしたのにな。」
目の前に広がる海は、あまりに美しく輝いていた。
おぼんろ最新作は、夏の夜に繰り広げられる老人による不思議な海の冒険譚。
今を生きろ。今、ここにある美しさに目を凝らせ。それでダメなら想像するんだ。心の底からのしあわせ願いながらに。
劇場で体感する物語とはまた別の体験を、生配信にて感じてください。