そして、もうひとつの兆しが、レーベンスボルン時代に共に看護師として働いたモニカ(石飛幸治)とブリギッテ(山本芳樹)の存在だ。同じ身分だったはずなのに、その美貌だけでいち早く幸福を手にしたマルガレーテのことが、ふたりは面白くない。モニカは使用人としてクラウス家に潜り込み、レーベンスボルン時代にマルガレーテがこぼした失言を盾に陰湿な嫌がらせをする。そしてブリギッテはクラウスと関係を結び、その子を宿す。狂いはじめた旋律は、不協和音となって死神を誘い出す。
そんな中で、少しずつマルガレーテとフランツの間に特別な感情が芽生えはじめる。孤児であったとされるフランツだが、本当はポーランド人だった。ドイツの侵攻により祖国を蹂躙されたフランツは、アーリア人特有の金髪碧眼の容貌を買われ、エーリヒと共にクラウスの養子として迎えられたのだ。
正義感と知的好奇心に富むフランツはマルガレーテを慕い、帝国の人間としての自覚と誇りに燃えるようになる。そして、マルガレーテもまたモニカとの摩擦とクラウスへの疑念に疲弊する中で、フランツの存在に安らぎを見出す。だが、この男女愛とも家族愛ともつかないふたりの関係こそが、ジェンガを崩す最後の一手だった。崩れた幸福の城から、破滅のツィゴイネルワイゼンが鳴り響く。