Studio Life×東映ビデオ舞台プロジェクト第1弾『死の泉』が開幕した。原作は、直木賞受賞作家・皆川博子による同名小説。第32回吉川英治文学賞を受賞し、「週刊文春ミステリー・ベスト10」第1位、「このミステリーがすごい!」第3位に輝いた、皆川博子の代表作だ。1999年、劇団スタジオライフによって初めて舞台化。その後、2度の再演を経て、今回が12年ぶり4度目の上演となる。20年の時を経ても決して古びることない本作の一部を、2月27日に行われたゲネプロ(上演はA キャスト)をもとにレポートする。
劇団スタジオライフを形容するときに、恐らく多くの人が挙げるであろうフレーズが「耽美」。美しき男優たちによるオールメールの世界は気高く、純潔さと淫靡さの両方を孕んでいる。
この『死の泉』では、そんなスタジオライフの唯一無二の表現と、皆川博子の幻想的でミステリアスな世界観がぴたりとシンクロする。陽の当たらない洞窟のような、誰にも届かない叫びのような悲劇の匂いが、通奏低音として全体を包む。観客は、仄暗い地下室で息をひそめるように、破滅の予感が徐々に膨らんでいくのを見つめる。この緊迫感と高揚感が、『死の泉』の面白さだ。
舞台は、第二次世界大戦中のドイツ。レーベンスボルン(未婚女性がドイツ人を父に持つアーリア人の子を出産するための支援施設。邦訳は「生命の泉」)に身を置くことになったマルガレーテ(松本慎也)は、そこでひとりの男性に見初められる。男性の名は、クラウス(笠原浩夫)。不老不死を研究する医師だ。クラウスの寵愛を受け、恵まれた環境で穏やかな生活を送るマルガレーテ。だが、その平穏は、やがて訪れる悲劇のための前奏曲だった。
物語は2幕構成。第1幕では、主にマルガレーテの視点で物語は進む。美しきマルガレーテは、その美貌からクラウスの心と何不自由ない生活を手に入れる。ふたりの養子・フランツ(澤井俊輝)とエーリヒ(伊藤清之)も愛らしくていい子たちだ。よくマルガレーテに懐いている。お腹に宿した子も健康に生まれ、ミヒャエルと名づけられた。すべてが、うまくいくはずだった。
しかし、トランプに忍ばせたジョーカーのように、不吉の影はいつもそこにある。前兆は、他ならぬクラウスだった。一見、人格者に見えるクラウスだが、何気ない言動のそこかしこに「尋常ならざるもの」が見え隠れする。そのひとつが、エーリヒへの偏愛だ。ボーイソプラノを愛するクラウスは、天使の声を持つエーリヒに強い執着心を示す。クラウスのボーイソプラノに対する耽溺は、若く美しき少年への愛念のようでもあり、観る者を不穏にさせる。
ホルマリン漬けの奇形児が並ぶというクラウスの実験室。不老に妄執するクラウスの犠牲となった双子の姉妹・レナ(宇佐見輝)とアリツェ。まるで暗闇の回廊で1本1本燭台に火をともすように、明るみに出るクラウスの異常性。そのたびに、マルガレーテの幸福の城は、多くの人の嘆きの上に建てられた危うきジェンガであることが突きつけられる。