【オフィシャルレポート】VR演劇『Visual Record~記憶法廷~』開幕レポート

初演直前の6月27日午後、ゲネプロにお邪魔してみると、多くのマスコミや関係者が並んでいて、場内もほぼ満席。一瞬驚いたが、これは本番に向けてVRゴーグルの調整を万全にしておかないといけないので、それゆえゲネプロに多くの人が集められたというわけだ。
まだ発展途上の試み、こうした未来に投資し得る実験的題材の場に同席できること自体、実に貴重な体験だ。

まずこの作品の世界観からお伝えすると、椅子や机などの「モノ」が目撃した記憶「ヴィジュアル」を「レコード」として断片的に記録できるようになった近未来社会が舞台。これによって犯罪の証拠なども得やすくなり、裁判は簡略化され、冤罪も減少。

そんな中、ひとりの主婦が家の中で殺害された事件の被告人・樋口(岡本至恩)を裁くため、門倉(吉倉あおい)、日下部(堤匡孝)、山崎(山口景子)、森(小築舞衣)の代表陪審員および複数の陪審員(私たち観客がこれを担う)が法廷に集められ、朝比奈特別陪審判事(サトウヒカル)のもとで審議が行われていく。

ここで用いられるのがVRで、観客=陪審員は舞台上の4人の代表陪審員とともにゴーグルを覗きながら(そのつど朝比奈から合図が出る仕組みになっている)、事件にまつわる数々のレコード映像を見て、被告人が有罪か無罪かを推理していくのである。

これは実に斬新かつユニークな手法で、出演者と観客が同一空間にいる演劇ならではの特色を巧みに活かしたもので、まずはこのアイデアを考えついた御仁を大いに讃えたい(これを映画やドラマなどの映像メディアでやっても、さほど面白みはないだろう)

また今回のVR映像は360度全方向のものではなく、ほぼ人間の視界に沿った上下左右180度範囲内で映されるので、やたらと首を動かす必要はなく、ただし瞬時に細かいところまでチェックしないと大事なところを見落とす恐れもある(もっとも、舞台上の出演者たちがそれぞれ推理を繰り出しながらちゃんとドラマを進行してくれるので、実はぼーっと生きてても、いや見ていてもチコちゃんに怒られるようなことはない!?)。

出演者たちそれぞれのキャラクターは明確すぎるほどに描き分けられているので、いくつかのトリックの連鎖に困惑することはあっても、彼らの佇まいを見守り続けてさえすれば置いてきぼりを喰らうことはない。

微笑ましかったのは、証言台に立つ被告人もまたヴァーチャル映像という設定なのだが、それを本人が生身で演じ、時折強烈な光を用いて登場したり消えたりすることで、VRという最先端を売りにした舞台の中、こうしたアナログ極み的手法を堂々と披露しているあたりもまた楽しい。

かくしてクライマックス、採決として観客である私たち(=陪審員)に有罪か無罪かの判決が求められ、その結果に応じてドラマは進められていく。

つまり観客の多数決次第で、無罪バージョンか有罪バージョンに分岐するので、これもまた生の演劇ならではの面白さ。そのときそのときの観客の嗜好によって結末も変わるのだから、リピートしたくなる方がいらっしゃるかもしれない。

いずれにしても、最新メディアを果敢に採り入れながらの斬新かつ挑戦的な実験性は、やはり演劇ならではの賜物であり、今後の可能性や発展性など未来への期待までも大いに味わせていただいた。

取材・文:増當竜也

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2.5news(編集部)

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