「文豪ストレイドッグス」とは原作・朝霧カフカ、作画・春河35による漫画作品を原作とし、文豪たちと同じ名を冠するキャラクターが異能力で戦う人気異能力バトル漫画。2017年12月には舞台第一作目が上演され、続く2018年9月の第二作目、舞台「文豪ストレイドッグス 黒の時代」では太宰治(多和田任益)の過去の物語が描かれた。
満を持して、本日から始まる第三作は「三社鼎立(ていりつ)」という言葉の意味通り、中島敦(鳥越裕貴)、太宰らが所属する武装探偵社、芥川龍之介(橋本祥平)、中原中也(植田圭輔)らが所属するポートマフィア、そして海外からの新勢力、フランシス・F(君沢ユウキ)らの組合<ギルド>という3つの勢力が互いに拮抗し合い、ヨコハマという土地で異能力バトルが繰り広げられる。
はじめにゆらりと舞台上に出てきたのは「白鯨」のハーマン・F(砂塚健斗)と、祖国の妻と通話をするフランシス。続いてジョン・S(川隅美慎)、ラヴクラフト(村松洸希)、ナサニエル・H(香取直登)、ルーシー・M(エリザベス・マリー)、マーガレット・M(富樫世羅)、ルイ―ザ・A(永田紗茅)もそのあとに続き、機敏で不思議なダンスとともに日本への到着を告げた。中島と泉鏡花(桑江咲菜)は外出中にポートマフィアの幹部・尾崎紅葉(夢月せら)に襲われる。自分もかつて光に憧れたが・・・と悲しそうに鏡花に帰参を諭すが、これを拒否されてバトルへ。鏡花は、中島の発する光に自分が憧れてもいいものだろうかと悲しみ迷い、姿を消す。そして武装探偵社の本拠地に直接赴いたフランシスは、探偵社との交渉が難航すると、堂々と敵意を露にする。
武装探偵社とポートマフィアの対立に、異国の地からやってきた組合<ギルド>。彼ら三社のトップが一斉に声高らかに宣言する。「異能力戦争だ!」と。物語は原作の流れに沿い、原作ファンは安心して観劇できる。
「文豪ストレイドッグス」と言えば「異能力」が特徴的だ。本舞台では役者のアクションと映像とアンサンブルによる三位一体の演出で「異能力」が表現される。例えば芥川龍之介の「羅生門」は両手を組み捻って操り、舞台一面に禍々しい黒と赤の棘が出現し、ダンサーが手にした布で相手に噛み付いて拘束している。ジョン・Sの植物を操る能力も、うねうねとした植物を思わせるダンス、映像、木をまとったアンサンブルの動きによるもので「異能力」を観ることができる。能力ごとにその特性や表現の仕方は異なるため、ステージという広い空間に登場するキャラクターたちのバトルがどのようなものであるか、どう動きどう決着がつくのかということは舞台の見どころのひとつだ。
このように本舞台では、アンサンブルの動きも作品の雰囲気を伝えるのにとても重要だ。キャラクター以外に登場する名前のない人間を演じるのはもちろん、時にはモノやキャラクターの心の動きと同調し、場面や心情の変化を巧みに表している。演出・中屋敷法仁の独特な感性によるものが非常に大きく、場面変化の表現の仕方にも色濃い特徴を感じ取れるだろう。
福沢諭吉(和泉宗兵)、森鴎外(窪寺昭)、フランシス・Fら、組織のトップらがまとうものは底知れぬ存在感、威圧感を伴い、舞台だからこそ味わえる空気そのもの。目線や身体の動かし方、声音一つで格の違いを思わせられる。
太宰と中也の、過去に「双黒」と呼ばれたコンビは原作でも人気が高く、夢野久作(倉知あゆか)奪還のために手を組んで戦うシーンも見逃せない。ふざけた物言いで中也への「嫌がらせ」が多い太宰も、その態度にキレまくる中也も、戦いではお互いの異能力を信頼し強大な敵を撃破している。
そして対比されるように、何度も対峙している中島と芥川。中身は違えど暗く辛い過去を持ち、同じ人物に救われた経緯のある二人。彼らの憎悪や孤独に対する感情は誰よりも深く、生きることや戦うことへの原動力ともなっている。何度も感情を爆発させて、理解できない相手への反発心を積もらせる。その対峙は運命か、果たして何者かの意図か。今後の展開にも注目だ。
宮沢賢治のゆかりの地・岩手を皮切りに、森鴎外が暮らした福岡(福岡県小倉市「森鴎外旧邸」)、愛知、大阪、東京の5都市で約一ヶ月間公演する。
舞台上で彼らが「生きて」いる様をぜひ体感して欲しい。
Ⓒ舞台「文豪ストレイドッグス 三社鼎立」製作委員会
文:松本裕美
写真:宮川舞子