本作は2009年より展開され2019年に10周年を迎えた末満健一によるTRUMPシリーズの最新作である。本公演は2019年5月11日より幕を開け、月の翳り編と星ひとつ編の二作同時上映となる。以下、月の翳りについてのレポートである。
物語の舞台は繭期の吸血種を保護、矯正、教育する「クラン」である。「高貴なる五家」として羨望の対象となるラァエロ(演:荒木宏文)、アンジェリコ(演:安西慎太郎)、ディエゴ(演:碓井将大)、エミール(演:宮崎秋人)、ジュリオ(演:田中亨)らの苦い青春が描かれる。
中でもラファエロとアンジェリコの関係性は重要である。共に将来を期待されるもそこに渦巻く不安や執着心は友情を拗らせていく一端となった。
クランで起こっていた貴族狩りに巻き込まれた2人を助けたのがディエゴ、エミール、ジュリオの3人だ。彼らもまた有名貴族だが、後継の意志があるラファエロ、アンジェリコとは対象に自由な生活を望んでいた。会話劇からは互いに影響し合う様子が、彼らの素直なむき出しの感情により伝わってくる。
クラン全体では繭期における強い幻覚症状により暴走する生徒が急増していた。その中でもディエゴは一層深い幻覚に悩まされた。ディエゴはある日ティーチャードナテルロ(演:細貝圭)に何か知っていることはないか、と問う。そこでドナテルロが口にした「COCOON」の存在がついに高貴なる五家の関係を決定的な破壊へと導く。ミステリアスな音楽も彼らの葛藤を表現しているようでCOCOONの世界へと深く誘われる。さらに、繭期の幻覚が常に舞台上にいる演出も我々に緊張感や不穏な空気感を与える。感覚が研ぎ澄まされ、物語へのめり込まずにはいられない。
高貴なる五家だけでなく、ティーチャー陣にもぜひ注目してもらいたい。生徒らの動きと並行して明かされるティーチャー陣の過去は、題材である繭期の理解を深めるものとなるだろう。また、シリアスなだけでなくティーチャーミケランジェロ(演:鬼頭真也)のコミカルなキャラが活かされるシーンがあるのも魅力だ。繭期とは吸血種の人生にどのような影響を与えるのか、その答えはぜひ本作を観て考えてもらいたい。