【3.0レポート】『筋書ナシコ』

先行き不透明な人々がこの待合場所に現れる。それぞれの境遇がなんだか身につまされるが、何故か悲壮感は微塵もなく、軽妙な台詞で客席は大笑いする。出版社の社長やらなんやらが賑やかに登場し、あたふたドタバタ、入り乱れての人間模様、皆、先が見えそうで見えない、”筋書ナシコ”状態、そこに時事問題や経済、政治問題を散りばめて、シニカルな笑いにする。旬の”舛添問題”もしっかり挿入、笑いの中にも風刺的な要素が随所に散りばめられている。さて梨子はどうするのか、彼らの今の、その先には何があるのか、結局のところは基本的には不透明だ。また、人々の思わぬ繋がりもわかり、その不思議な縁は演劇ならではの面白さ。ラスト近く、『My Way』を歌う場面がある。通り過ぎた後に道はあるが、自分の前には道はない。人生は筋書きのないドラマ、だから皆、筋書ナシコなのである。ビルの待合場所は人生が、人間が様々な思惑を持って交錯する場所、そして関わり合いを持つ場所としての象徴、風見鶏は、人々の不安定さを表現するが、時にはそうではなく、様々な道があるのだということも示しているような気がする。高度経済成長時代、バブル時代、梨子はきっと面白いことや”これ!”というのを感じ取り、生きてきたのかもしれないが、いろんな状況にも翻弄され、気がついたら、独身・バツイチ、しかも40代。崖っぷちだが、意外な逞しさも感じさせる。俳優陣は皆、芸達者で観客は自分に似た感じのキャラクターに共感出来る。筋書のある人生なんてあり得ない、迷いながらも生きていく、その先にはほんの少しの光が見える、そんな人生応援歌のような舞台であった。

[公演データ]
筋書ナシコ
脚本・演出 鈴木 聡
2016年6月18日〜6月26日
紀伊国屋ホール

http://rappaya.jp/

撮影/木村洋一
取材・文/高浩美

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2.5news(編集部)

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