今回上演する『ノートルダムの鐘』は2014年と2015年の米国公演時、「物語に新たな深みを与えている」と高い評価を得ました。この演出を手掛けた人物が、スコット・シュワルツです。
スコット・シュワルツは、1974年ニューヨーク生まれ。オンからオフ、ストレートプレイからミュージカル、オペラまで大変幅の広い活動を続けている俊才で、ニューヨーク州サグハーバーにあるベイストリート劇場の芸術監督も務めます。これまでに手掛けた主な作品としては、『Jane Eyre』(2000年ジョン・ケアードとの共同演出)、『Bat Boy』(2001年)、『tick,tick…BOOM!』(2001年)、『Golda’s Balcony』(2003年)、『Murder For Two』(2013年)などが挙げられ、Lucille Lortel賞や批評家サークル賞なども数多く受賞しています。
新しい『ノートルダムの鐘』の舞台は、いかにあるべきか―。計画立ち上げ期より参加していたスコットは、あるとき製作総責任者であるディズニー・シアトリカル・プロダクションズ社長トーマス・シューマーカー氏に対して、3つの視点を提案したといいます。それは、①作品から受ける印象を、ユーゴーの小説がもつシリアスな方向性へと寄せていくこと、②登場人物の心理や関係性を単純化せず、原作がもつ複雑で多層的な心理ドラマの流れを尊重すること、③楽曲を作品の柱に据え、その要素を前面に押し出すことというものでした。
これらは、極めて画期的な視点だったといえるでしょう。①については、従来のディズニー社「ノートルダムの鐘」に感じるハッピーエンドというイメージを大きく方向転換させるものであり、また②についても、分かりやすさよりも複雑さに重きを置くという点で、一般的なミュージカル創作とは異なるアプローチであるからです。スコットは、これらの点を追求し、同時に、作品のかけがえのない財産である③音楽を最大限に用いることで、作品を“大人向けの舞台”として、“カジモド、フロロー、エスメラルダ、フィーバス4人の登場人物による濃密な心理ドラマ”にしたいと考えました。
実際に、今回の演出版では、これまでコミカルな動きを見せていた石像ガーゴイルの存在をカットし、それに類するコメディ要素も極力排しています。また、小説の時代設定に基いて、中世ヨーロッパの時代に実在した演劇的技法を用いることも特徴の一つ。舞台上にクワイヤ(聖歌隊)を設置し、キャストとクワイヤ全員で物語を進めていく演出は、まるで礼拝に訪れた会衆により語られた当時の受難劇を思わせます。こうしたシンプルながら正統的な表現形式が、作品のシアトリカルでシンボリックな世界観を支えているのです。
ユーゴー原作に立ち返り、その文学性を忠実に立体化しようと試みたスコット・シュワルツ。作品の新たな深みは、まさしく彼の慧眼によってもたらされたといえるのではないでしょうか。
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