『コミックZERO-SUM』(一迅社)にて2007年より連載中の人気コミック、単行本は17巻まで刊行、またドラマCD、アニメ化も果たしており、今回は初の舞台化となる。演出は赤澤ムック、劇作家・演出家として活動しているが、映像を主とした女優活動も。主演映画『結び目』がカイロ国際映画祭 長編デジタル部門のコンペ作品に選出、主演短編映画『solo』がロカルノ国際映画祭 国際短篇コンペティション部門にノミネートされるなど、海外での評価も高い、注目のクリエイターだ。最近は『終わりのセラフ』The musicalの脚本も担当し、こちらも好評であった。
日雇いの仕事やスリで日銭を稼ぐ少年・花礫(ガレキ)は盗み先の館で、腕輪を残して消えた青年”嘉禄(カロク) ”を捜すため旅をしていた不思議な少年・无(ナイ)と出会う。その館で能力者(ヴァルガ)に襲われた二人は、国家防衛最高機関「輪(サーカス)」によって救出され強制的に保護された。輪の移動中「故郷に寄って欲しい」という花礫の申し出により、花礫と无そして監視役の輪第貳號艇闘員・與儀(ヨギ)と共に「幻燈の街・カラスナ」へ向かう。カラスナで花礫は幼馴染のツバメと再会するも、震える彼女の口から「人を殺してしまった」と打ち明けられる。事の詳細から輪が追う能力者(ヴァルガ)との関係性を疑う彼ら。しかし、その現場で見た真実(もの)とは……が、だいたいのあらすじである。
開演直前に風の音が響き渡る。无が登場し、とぎれとぎれの言葉がだんだん歌になる。おもだったキャラクター、无、花礫、與儀(ヨギ)、ツクモ、平門(ヒラト)が登場、物語の始まりである。能力者(ヴァルガ)に襲われる无、花礫、この能力者(ヴァルガ)、ここは舞台ならではのコンテンポラリー的なコリオで、怪しさと不気味さを表現する。平門は「輪」第貳號艇長、洞察力はあるが、なかなかに慇懃無礼な態度、ヨギはムードメーカーっぽく、人情に厚く、ツクモはクールな少女、2人とも「輪」第貳號艇闘員だ。「輪」に保護されるナイ、ガレキ、ナイは無垢で純真だが、ガレキは辛い過去があり、なかなか打ち解けない。そんな対照的な2人のコントラストが物語のアクセントになっている。カラスナでガレキはツバメに再会するも、彼女から大変なことを聞いてしまう。
最初からミュージカルナンバーが次から次へと続き、特に2曲目は観客も盛り上がれるような楽曲となっている。それからキャラクターの”テーマソング”的なナンバー、ガレキの楽曲はちょっとハードロック調、それから平門の楽曲と、メドレーのように流れていく。映像を使うところもあるが、どちらかと言うと”アナログ的”な演劇ならではの演出、物語はハードだが、ところどころにホッとするシーンもあり、そこは”エンターテイメント”。ツバキの想い人のメイガはツバメとヨタカの双子のデータを得るためにツバキを利用していたのだが、結果、ヨタカは能力者になってしまっい、そのヨタカを止めようとしてツバキは落命するが、その姿は切なく、またそれを知ったガレキは慟哭する。ここは山場のひとつでここは泣けるシーンだ。また、ラスト近くのバトルシーンも迫力があってここも見どころとなっている。
ナイを始め、主要な人物は皆、孤独で傷ついている。ラストは、そんな登場人物たちが心を通わせて寄り添っていく。无は「家族って大事なんだね、家族になったんだね」と言う。家族と言えば親が居て子供がいる、そういうものを連想するが、この物語の”家族”はそういうものではない。気持ちが通じ合い、どこかで共鳴する、そしてお互いを思いやる。無垢な无はそれを”家族”と表現した。薄暗い曇から光がもれて、そこからだんだん明るくなるような、そんなエンディングであった。そんな”結末”を迎えた後は、お楽しみタイム、『カーニヴァル』なので、賑やかなショータイム、ここはペンライトOKでガンガン楽しめて、しかも通路をキャスト達が駆け抜けるのでハイタッチして盛り上がって欲しい。
なお、今回の公演は様々な企画がある。詳しくはHPを!
[出演]
无役:倉持聖奈
花礫役:飯山裕太
與儀役:鷲尾修斗
ツクモ役:岡林佑香
平門役:岸本卓也
ツバメ役:甲斐千尋
ヨタカ役:大見拓土
ツバキ役:小板橋みすず
迷呀役:黒木シオン
[公演データ]
THE STAGE『カーニヴァル 始まりの輪舞曲』
2016年5月20日〜29日
あうるすぽっと
脚本:石橋大樹
演出:赤澤ムック
音楽:印南俊太朗
http://karneval.eigeki.jp
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ハッシュタグは #カニステ
©御巫桃也/一迅社・カーニヴァル製作委員会
©2016THE STAGE『カーニヴァル』製作委員会
取材・文/高浩美