【3.0レポート】ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』

ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』

2014年に日本初演の心理スリラーミュージカル、好評により再演となった。今回はアンナ役に中川翔子がキャスティング、それ以外のキャストは初演からのメンバーとなる。もともとはソ・ユンミがたった1人で脚本・演出・作曲をした作品で2012年初演、これが完売し、翌年に再演、大きな話題となり、翌年の2014年に日本初上陸したのである。

物語の舞台は1920年代のドイツ。著名な心理学者グラチェン・シュワルツ博士の屋敷で火事が起こり、屋敷及び博士の遺体さえも燃え尽きた。この事件は大きなニュースとなったが、人々の興味を引いたのは、シュワルツ邸の家庭教師メリー・シュミットが、自ら火傷を負いながらも、博士の4人の養子達、ハンス、ヘルマン、ヨナス、アンナを劇的に救出したということであった。しかし、メリーは失踪、残された子供達は、事件の衝撃なのか、その晩の事を何も憶えておらず、火災の原因はわからずじまいで闇に葬られた。ところが、メリーのアリバイが疑われる証言が出始め、彼女は容疑者として追われることとなる。それから 12年の月日が経ち、いつしか事件は忘れ去られ、4人の子供達はそれぞれ違う家庭の養子となり新しい人生を送っていた。そんなある日、 彼らに、グラチェン博士の手帳が届く。そこには驚くべき事件の真相が……というのがだいたいのあらすじである。

 

舞台後方中央に大きなドア、真ん中に盆があり、その上にはソファーがある。椅子、テーブル、花瓶等の小物、天井にはシャンデリア、セットは極めてシンプルだ。幕開きから何かが始まるといった音楽、ピアノの旋律、エレキギターの音、不協和音、5人が登場し、歌うが、この歌詞を聴いていれば、物語の設定がわかるようになっており、世界観をイメージしやすい、まさに”ミュージカルの王道”な導入。 ハンス(小西遼生)は成長し弁護士になった。「真実を知りたい」と歌うが、強い意志が感じられる楽曲だ。ハンスは正義感が強く、兄弟想い、4人の中では一番年上である。ヘルマン(上山竜司)は心優しく妹のアンナ(中川翔子)を想っていたが、事件がきっかけで、粗暴な行動が目立つようになっていた。アンナは少女時代は闊達な性格だったが、今は心閉ざしており、末弟のヨナス(良知真次)は純真で無邪気な少年だったが、12年後、神経不安症を患うようになってしまった。そんな状況に心を痛めていたハンス、「真実がわかれば、ヨナスの病も治るかもしれない、アンナももう少し楽になるかもしれない、12年前の事から目をそむけずに、向き合わなければ」と思い、行動を起こす。
難易度の高い楽曲ばかりであるが、ライトモチーフの使い方が効果的で、曲を聴いているだけでも、スリリングで力強さを感じる。キャストは様々なミュージカルシーンで活躍しているメンバーばかり、繊細な心理状況を歌詞にのせて説得力がある歌唱で観客を惹き付ける。初舞台の中川翔子は、度胸満点でしかも綺麗な歌声を披露、他の4人とひけを取らない程の出来映えであった。
じわじわと真実が明るみになるが、まばたき出来ないくらいの濃密な展開、スリル、渦巻く感情、花瓶や椅子等の道具や天井のシャンデリアまでが、その驚くべきラストに向かっていく。登場人物たちの心理的変化、熱い魂、狂気、冷静さ、拒絶、人間の弱さ、強さ、ひたむきさ、愛、そういったもの全てがこの空間に充満する。演技、歌、マイムのような一挙一動、台詞、全てが計算され尽くされており、さらに時間の行きつ戻りつの転換も盆を効果的に利用し、実にスムーズであるが、それに合わせて4人の兄弟がその瞬間、子供になったり、12年後の大人になったりの切り替えが見事で、芸達者が揃うとこんなにも鮮やかに見せてくれるのだなと感心。メリー役の一路真輝はもはや貫禄、ミステリアスな雰囲気もあり、作品の要となっていた。
不幸な過去、記憶、そこから逃れたい気持ちとそれに立ち向かう勇気のせめぎ合い、その葛藤は苦しいが、超えられた瞬間に一筋の光が見えるはずだ。

 

 

ゲネプロ前に囲み会見があり、キャスト全員が登壇した。
初舞台の中川翔子は「先輩たちに優しくボコボコにして頂き、感謝、感動しております。魂を全裸にして挑みます」と語ったが、今後ミュージカルで活躍出来る程の出来映えで努力の成果を舞台で披露。またキャスト全員でもんじゃ焼きに行ったそうだが、良知真次によると「特に芝居の話はしなかった」そうで、一路真輝によると「もんじゃの話はした」らしい……ここで培ったチームワークはしっかり舞台に表れていた。この諸先輩方によると中川翔子は「子供時代のアンナちゃんが可愛くって!」(一路真輝)、「初舞台とは思えない程、段取り覚えるのが早かった」(良知真次)、「走り方がめちゃめちゃ可愛い!」(上山竜司)と高評価。笑い合ったり、発言にウケたりと仲の良いカンパニー、物語はハードだが、キャスト関係はほのぼのとしているようだ。

[出演]

小西遼生(ハンス)


上山竜司(ヘルマン)


中川翔子(アンナ)


良知真次(ヨナス)


一路真輝(メリー)

[公演データ]
ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』
脚本・作詞・音楽: ソ・ユンミ
演出: 鈴木裕美
上演台本: 田村孝裕
訳詞: 高橋亜子

2016年5月14日~5月29日 【東京】世田谷パブリックシアター
2016年6月3日~6月5日 【兵庫】兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2016年6月9日 【福岡】福岡市民会館
2016年6月17日 【名古屋】愛知県芸術劇場 大ホール

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取材・文・撮影/高浩美

2.5news(編集部)

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