【3.0レポート】ミュージカル「DAICHI」ー愛とともに生きる人たちへー

生演奏が奏でる美しいナンバー、そして実話が持っているリアリティと共感、傷つけ合う、すれ違う、そして喪失からの再生、そこに“農業”が絡み合う。農業とは何なのか。定義としては“土地を利用して有用な植物・動物を育成し、生産物を得る活動”となる。農業の起源については諸説あるが、イスラエルで23000年前の農耕の痕跡を発見したとニューヨークタイムズで報じられている。太古から人類は農業を営んでいたが、現代は、効率重視で大事なものを欠落させてしまっている。息子の死で大事なものに気づく娘夫婦、農業は土地を“利用させて頂いている”、だから地面に向かって、作物に向かって、虫や微生物に向かって「ありがとう」と言う。そう考えれば大地に向かって感謝の言葉を言うのは必然。大地には多くの微生物の“死骸”もある。それが野菜等の栄養になり、我々が口にする。生まれて、生きて死ぬ、当たり前であるが、ここに大きな真実がある。この世に生きるもの全てが「生まれて、生きて、死ぬ」、その上に現在がある。
俳優陣は実力者揃い、主演の鈴木蘭々は、自分の志に真っすぐなヒロインを構築し、好感が持てるし、その夫を演じる縄田一は実直で優しいキャラクター作りでホッとするような、リアルな存在感。親夫婦を演じる森田浩平&岡田静、コンビネーションも良く、親世代にありがちな頑固一徹な雰囲気が作品のアクセントになっている。ダイチ役はWキャスト、稽古場で拝見した時は小林諒音、親ぐらいのベテラン勢相手に堂々とした演技で、かなりの逸材、そしてゲネプロでは西川大貴、こちらのダイチ、伸びやかな歌声、芝居の安定感も抜群、若いながらもキャリア十分なベテランだ。“お笑い担当”の奥島洋介役の阿部浩貴と藤原浩二役の竹森巧の息のあったやり取りは楽しくもちょっとホッとさせてくれる。全てのキャラクターに見せ場があり、制作側の心意気も感じる。
この作品は、立身出世物語のような痛快さもなければ、時代劇のように激しく生きる人物もいない。登場人物全てが普通の人々、感情移入もしやすく、どこか、自分と重ね合わせて観ることも出来る。セットもシンプル、それだけで十分伝わる作品、食べる前にいちいち「ありがとう」と口に出さなくても、心の中でつぶやきたい、「ありがとう」と。

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2.5news(編集部)

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