幕が開くとそこはとある武家のお屋敷。そこに寝ている主人に刃を向けるのは安須真の4人の忍たちだ。剣を突き立て布団をめくると……。なんとテルテル坊主。変わり身の術だ。すでにこのワンシーンでシリアスかつユーモアのある舞台の展開を予感させてくれる演出の我孫子令の手腕が実に見事だった。
そこに颯爽と現れるのは、自らを最強の忍者だと謳っている恵比三(納谷健)。彼の目でさえ追えない剣捌きが躍動する。オープニングから目を奪われること間違いなし。シンプルな舞台装置に役者の肉体の鼓動と息吹が感じられる。いとも簡単に敵をやっつけてしまう。そして自身は史上最強だと名乗る。史上最強最悪の傲慢忍者は伊達じゃない。
シーンは変わり、密偵の役割として恵比三に告げられる。もうすでに安須真に向かっている僧侶の布丁(星璃)の合流と守護。二つ目は、敵国・安須真への文書の送達、それはこの世の最強の忍術が書かれているという一本の巻物「~浪花忍法帖~」。彼は、一人で十分と意気揚々と安須真に向かうのだが、様々な困難が彼に立ちはだかる。恵比三に家族を殺されたと思い、恵比三を憎む影使いの忍者・弁才(松井勇歩)。さらには浪花の刺客、妖虫使いの忍者の寿(藤戸佑飛)、火炎使いの大角(吉本考人)、安須真最強の忍・毘沙丸(三好大貴)。苦難のすえ、ようやく布丁に巡り会えたと思うと殺生はするなと言われたり、布丁に諭され仲間になった弁才、村を焼き払われ怪我をした少年・達磨(田中亨)、恵比三の弟弟子で水術の使い手の禄郎(尾形大悟)たちと果てない旅を続けて行くのだが……。
襖と畳というシンプルな舞台装置だけあって、注目すべきは役者の、表情、仕草、殺陣、そのすべてだ。