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【レポート】『おやすみ、ジャック・ザ・リッパー』

舞台『おやすみ、ジャック・ザ・リッパー』

現在 『ARIA』(講談社)連載中の『おやすみ、ジャック・ザ・リッパー』が舞台化される。”シザーハンズ”の異名をとるエドワード、大きなハサミで斬首刑を執行する死刑執行人であるが、ある日、少女に刺され地獄へと堕ちてしまう。目が醒めるとそこは怪物達が闊歩する妖しく、賑やかな冥界、そこには「ナイトメア・マーケット」があった。エドワードはよくある地獄の責苦に遭うこともなく、「地獄で普通にくらすこと」を命じられる。「ナイトメア・マーケット」のオーナーのK.A.の斡旋で理容室「サロン・ド・ジャック・ザ・リッパー」で働くことに。そこの店長ジャックと狼男のウルフといういわくありげな人物が待ち構えていた。訳ありな様子のジャック、400年に一度開催される「天国行き」のチケットを求め 「ナイトメア・マーケット」の商売戦争に巻き込まれていく。しぶしぶ付き合わされていたエドワードではあるが、何処か憎めないジャックや、狼男のウルフと共に生活をしていくうちに、シザーハンズである自分の居場所を見いだしていく。そこへ、死神のグリム・リーパーが現れて……というのが、だいたいのあらすじだ。

幕開きはコミックもそうだが、エドワードの独白から始まる。「いつか、地獄へ堕ちると思っていた……」刺されたかと思う間もなく気がつくとそこは地獄、「地獄へようこそ!」、刺されてから、エドワードがジャックやウルフたちと出会うまではたたみかけるような展開、Rockな楽曲が場面を盛り上げる。原作がわからなくても、それぞれの関係性がわかるようになっている。殺人、地獄、ときたら”ホラー”とか、おどろおどろしい内容かと思いきや、絶妙なタイミングで外してくれる。何故かおでんが出てきて大鍋に足を突っ込み「熱い!熱い!」を連発するジャックにエドワードは目が点になる。訳がわからないまま、エドワードはジャックから理容店を任されるはめになる。しかも「地獄で普通暮らすこと」が命題、普通でない人々(”人”なのか?)がエドワードを悩ませる。しかし、ハチャメチャなジャックたちと過ごすうちにエドワードは彼らに対して親しみを覚えていく。ジャックやウルフ、見た目はかなり怪しいが、性根は心優しい、愛すべきキャラクターだ。エドワードの心は少しずつ変化していく。この3人の気持ちの変化や心の交流がほのぼのしている。ゴシックホラー的風味であるが、中身はコメディ色が強い。この落差が面白く、あぶない場面もきわどいところで、ガクッと絶妙に外してくる瞬間が面白く、観客席から笑いが起こる。背景に映し出されるマンガの作画、台詞、原作と視覚的にシンクロさせる。ところどころにミュージカル風に歌を差し込んで場面を、感情を盛り上げる。2幕ではジャックの告白、エドワードとの関係、偶然出会った人物と意外なところで繋がっていたりするのは日常でも時々あることだが、そんな不思議な縁が今後の展開を暗示させる。
”シザーハンズ”のエドワードを演じる高崎翔太は、”災難巻き込まれ型”な主人公をちょっとコミカルな味付けで好演、いい加減な理容室の店主、ジャック・ザ・リッパーの井深克彦は長身の立ち姿がキマっているが、おでん鍋に足を突っ込むシーンはちょっとお間抜けで笑いを誘う。伊藤マサミ演じるウルフは仕草が可愛く、しかも身軽、「お手」「おかわり」等のシーンは本当にキュート。この”トリオ”が絶妙なバランスで物語の中核を担う。死神グリム・リーパー役は「執事歌劇団」の座長である葵、大きな武器を片手に立ち回るが、これが実によくハマっていてビジュアル的に美しく、凄みも見せて物語のアクセントになっていた。地獄の「ナイトメア・マーケット」のオーナーK.Aには動画投稿サイトで「いかさん」として有名な歌手の松岡侑李が扮しているが、原作者の二宮愛が作詞した舞台の主題歌『KILL TORI SEN(キリトリセン)』を流石の歌唱力で歌い上げる。

原作はまだまだ連載中、このトリオはその後、どうなったのか、エドワードはどうするのか、気になるところではあるが、現在進行形な作品、脚本は原作者自身が手掛ける。上演台本・演出はヨリコジュン、公演プログラムで「良い意味でジャンルが決められない作品」とコメントしている。ファンタジーではあるが、ちょっと謎解きの要素もあり、コメディでありながらも、シリアスでシュールな部分もある。こういった作品の舞台化は難しい側面もあるが、キャスト、スタッフの心意気を感じる。コミックの映像と俳優が時折シンクロする場面もあり、原作の雰囲気もアピールしつつの舞台化、この続きも舞台で観たいが、まずは原作を紐解いてみたくなるような気になるのは、ほどよく原作に寄り添っているからであろう。

[出演]
エドワード役:高崎翔太 ジャック役:井深克彦 ウルフ役:伊藤マサミ K・A役:松岡侑李(いかさん ) グリム・リーパー役:葵(執事歌劇団) リング役:田中大地他

[公演データ]

舞台『おやすみ、ジャック・ザ・リッパー』
脚本:二宮愛
上演台本・演出:ヨリコジュン
2016年4月20日〜24日
博品館劇場
http://www.zen-a.co.jp/OJR2016

©二宮愛・名尾生博・キナコ/講談社/Zen-A

2.5news(編集部)

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