仲間りょう原作の『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~』 (集英社「週刊少年ジャンプ」連載中)は、江戸を舞台に立派な武士を目指す不真面目で自堕落な主人公の磯兵衛を、浮世絵風の絵で描くギャグ漫画。2013年6月に病気休載の『ONE PIECE』の代原として掲載されたことをきっかけに人気が爆発、同年末から連載が開始された、現在、単行本が既刊9巻、累計100万部を突破するなど、いま全国的に話題を呼んでいる大人気漫画だ。
連載開始とともにFLASHアニメーションが制作されたのを皮切りに、周辺のメディアを巻き込みながら、今回の舞台化と平行して、アニメーションが配信されるなど、現在もその作品フィールドを広げ続けている。
今回の『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~』高尾山地獄修業編は、磯部磯兵衛物語の初舞台化だが、最初の公演地が、お笑いの本場と言われる大阪なのだ。
出演するのは、城田優、瀬戸康史、和田正人を輩出している D-BOYS の関西版で演劇を中心にさまざまなエンターテインメントを発信している『劇団 Patch』の面々。主人公磯部磯兵衛役は劇団 Patch1 期生のメンバーの井上拓哉が、そして NHK 連続テレビ小説「あさが来た」出演の中山義紘が母上役で初の女役に挑む。他にも磯部の友人の中島襄や、平賀 源内、志賀大八など個性空回り気味の珍妙奇天烈なキャラを劇団 Patch メンバーが演じている。
今回の舞台化は、単行本3巻収録の高尾山地獄修行編が核となっている。
舞台は、黒・柿色・萌葱の定式幕の前での高杉秀才(村川勁剛)と服部半端(松井勇歩)の前説からスタートした。拍手・手拍子の指導、劇場での注意などをギャグを交えながら進め、観客を物語の世界へ誘導していく。客席が温まったところで幕が開くと、部屋の中に一人立つ磯兵衛(井上拓哉)。母上(中山義紘)に隠れて春画を楽しもうとしていたところに母上が登場し、焦る磯兵衛と、空気を読まず息子を溺愛する母の掛け合いは、序盤からギャグの応酬。2人のやり取りに大笑いしたところで、出演者勢ぞろいのオープニングがスタートする。そこでラップも交えながら朗々と歌い上げる出演者達の姿に、観客は本作品が浮世戯言歌劇と銘打たれたミュージカルであることを思い出すという次第。つかみの演出のうまさに、松竹・吉本の2大新喜劇の本拠地大阪で、ギャグマンガを原作としたミュージカルを上演する製作者・出演者の気概を感じた。
約2時間の舞台は、大きく2つに分かれており、前半は、小さなエピソードに絡めながら、出演者達のキャラクターを紹介していくパート。中島襄(星璃)をはじめとする磯兵衛の武士道学校の同級生達や、Piperからの客演の怪優・川下大洋演じる反則だと思うぐらい強い先生、武士道学校のライバル忍術学校の服部半端、江戸で8番目に強い剣豪志賀大八(岩﨑真吾)、江戸の天才・平賀源内(三好大貴)、源内が造った宮本武蔵ロボ(竹下健人)、謎の南蛮人サヤーテ(藤戸佑飛)、そして忘れちゃいけない磯兵衛があこがれる団子屋の看板娘(鎮西寿々歌)。それぞれが磯兵衛や周囲の人たちが巻き起こすエピソードとともに自然に物語に参加していく。個性的過ぎる登場人物たちが違和感なく受け入れられるのは、弁士:坂本頼光の軽妙な語りの力も大きい。
一通り登場人物がエピソードとともに出揃ったところで、15秒(15分ではない)の休憩を挟み、物語は高尾山地獄修業編へと進んでいく。
それまで別々に展開していた物語が、武士道学校の高尾山への遠足によって1つの大きなうねりになって動き始める。だがそこは『磯部磯兵衛物語』の世界、一筋縄ではいかないし、シリアスな話がシリアスには進まない。新たな登場人物・熊本さんを加え、ギャグと歌が散りばめられた、ハイテンションでスピーディな話が進んでいく。はたして、「家に帰るまでが遠足」と言うが、無事に磯兵衛たちは家に帰ることができるのか、観客たちは笑いとドキドキで最後まで振り回され続けることになる。
物語を終え、客席がホッとしたところで、最後のお楽しみが待っていた。劇団 Patchの出演者たちによる、マッスルダンスと歌のステージだ。なんとこれは、写真撮影OKだというのだ。物語の本編で大笑いした後に、筋肉の乱舞と写真撮影。大笑いした心地よい疲れと「楽しかった」という思い出、そして写真を持って返ることのできる舞台だ。
【出演】井上拓哉/中山義紘/星璃/村川勁剛/吉本考志/岩﨑真吾/松井勇歩/竹下健人/鎮西寿々歌/川下大洋(Piper)/近藤頌利/有馬純/田中亨/藤戸佑飛/尾形大悟/山田知弘/村晋太朗(劇団壱劇屋)/坂本頼光(声の出演) 他
[公演データ]
舞台『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~』高尾山地獄修業編
2016年4月20日~4月25日
会場:ABC ホール(大阪市・福島区)
http://isobe-stage.com/
原作:「磯部磯兵衛物語〜浮世はつらいよ〜」仲間りょう(集英社「週刊少年ジャンプ連載」)
脚本・演出:末満健一
音楽:和田俊輔
©仲間りょう/集英社・ワタナベエンターテインメント
撮影・取材・文/菖蒲剛智
■過去リリース情報
https://stagenews25.jp/?p=704