時は1903年、ここはケンジントン公園、バリは行き詰まっていた。プロデューサーからは新作を期待され、しかし、スランプ気味なバリ。そこに現れたのは、海賊ごっこをしている男の子たち。彼らは兄弟でジョージ、ジャック、マイケル。そばには彼らの母親であるシルヴィアがいた。飾り気がなく、屈託の無い彼女は遊びに加わらないもう1人の息子、ピーターをバリに紹介する。シルヴィアは上演中のバリの芝居について話し始めるのだった。
スピード感のある舞台転換、絵画的な美しさで圧倒される映像とシンプルなセットと、そしてアナログな表現、前衛的でキュート、かつコミカルな振付、ポップでキャッチーなミュージカルナンバー、正統派で王道なミュージカルであるが、現代的、時代設定は1900年初頭なので、うっかりすると“時代劇”な古色蒼然とした方向に陥りやすいのだが、そうはならず、かっこよく、可愛く、それでいて優しさに溢れた演出だ。
バリは妻との関係も悪化、プロデューサーに新作のアイディアを話すも理解されない。シルヴィアは体調を崩し、彼女の家に行っても母親のモーリエ夫人に追い返されるわで、かなりヘコむ。そんな様子は見ていてちょっと情けなくもあり、でもちょっと可愛くもありな風情。悶々としているバリに“フック船長”が現れる。これは、いわゆるバリの“分身”で、かなり奔放でワイルドだ。その彼がバリを鼓舞する場面は1幕の山場、セットや映像で船が荒波に揺れる様子が圧巻で、ここはハイライトシーン、歌も迫力満点でここでバリがふっきれる。極めて演劇的な場面だ。