原作でもそうだが、公生は母の幻影に苦しむ。厳しい母は息子に時々手を上げ、暴言とも思える言葉を投げつける。心優しい息子は母の期待に応えようとするあまり、傷付き、遂には母に向かって「お前なんか死んじゃえばいいんだ!」と涙ながらに叫んでしまう。そんな主人公を安西慎太郎が全身で表現する。彼の苦しみを見守る友人たち、河内美里や和田雅成が明るく、温かく演じる。そしてかをりに少しずつ異変が起こる……。
見どころはなんと言っても演奏シーン、こういった場面は様々な表現が可能だ。ピアノやヴァイオリンを弾く演奏者、そして俳優、時折動きをシンクロさせつつも、演奏者は音楽を奏で、そして俳優は台詞や演技でその心を表現する。つまり、演奏者と俳優は“分業”しているように見えて、実は一体化している、という訳だ。人気のあるシーン、公生とかをりの演奏シーン、曲はもちろん、サン=サーンス「序奏とロンド・カプリチョーソ」。また、相座武士や井川絵見の演奏シーンもあり、ここは必見、映像も使用しているが過剰にならず、控えめな感じがシーンを際立たせる。