観阿弥という異才が生んだ謎めいた物語を、息子の世阿弥がリメイクし、さらに天才・三島が練り上げたこの戯曲。 その上スタジオライフのベールでくるまれてもいるのだから、二重、三重にかけられた強い魔法のようなものだ。魔 宮に入った観客たちはきっと一人として同じ出口に辿り着くことがないが、いずれの出口も正解なのだろう。クライ マックスで老婆が、絶望したように口にするセリフ「もう百年!」の意味をどう捉えるか(少なくとも記者は、原作 を読んだ時とまるで異なる解釈のヒントを得た)。その捉え方は、あるいは観る者の恋愛観をありのまま映し出す心 理テストのようなものかもしれない。ぜひ多くの人に体験し、自身の感性に問うてみてほしい。なお本作ではトリプ ルキャストが用意されている。日によって、老婆役を味わい深い演技に定評ある個性派・倉本徹が、詩人役をクラシ カルな優雅さを持つ仲原裕之や成長株の宇佐見輝が演じるとあり、そちらも気になるところ。上演は9月3日まで。
(文/上甲薫)