歴史の授業というと基本的に楽しい思い出がない、そう感じる人は多いであろう。年号と出来事を覚えるのに苦し紛れの語呂合わせで必死になった経験は誰しもが持っているはず。しかし、本当は面白いはず、の歴史、”歴史は楽しい”と思えるような工夫、例えばマンガの歴史本等、創意工夫は色々見かける。また、ゲーム、有名どころでは『戦国BASARA』や『戦国無双』、『薄桜鬼』、『刀剣乱舞』等、よく知っている歴史上のキャラクターが登場し、超絶な技を出したり、ルックスがイケメンだったりで歴史ブームが起こり、刀の展示会やゆかりの地には多数の”歴女”が押し寄せ、大盛況となっている。この優良コンテンツである歴史、この『ヒストリーズ・ジャパン』では日本史×漫才、今の日本の礎を築いた歴史上の有名人にご登場願い、漫才形式で楽しく歴史を披露する、という楽しい舞台なのである。しかし、考えてみれば、日本の歴史を作った人々、個性的なはず、その個性を思い切り漫才で見せようという趣向である。
出演者に手裏剣戦隊『ニンニンジャー』にアオニンジャーとして出演の松本岳、特撮テレビドラマ『仮面ライダー剣』や舞台『弱虫ペダル』出演の森本亮治、『BASARA』『ラズベリーボーイ』出演の小笠原健、ミュージカル『黒執事』出演の寺山武志、演劇集団キャラメルボックスで多くの作品で主役を演じる畑中智行、また女性キャストには元アイドリング!!!尾島知佳らを迎え、総合監修は『ギャグマンガ日和』の舞台化等多方面で活躍のなるせゆうせいがまとめる。 また、ミリオンセラーとなっている『読むだけですっきりわかる日本史』著者の後藤武士が歴史監修を、TBS系列で放送されていた『学校へ行こう!』の人気コーナー『B-RAPハイスクール』に出演し、『お勉強ラップ』で注目を集めていた、Co.慶応が主題歌をつとめる。
この作品のテーマ曲から始まり、年代順にキャラクターが登場する。まず最初は古事記に出てくるイザナギ(伊邪那岐命)とイザナミ(伊邪那美命)。古事記に書かれている話、これを漫才でやる。天地創造話やこの2人の関係(兄妹だが後に夫婦となる)をテンポ良く面白可笑しく早口でまくしたて、次の話にバトンタッチ、このスタイルで戦後までいくのである。間に時折、”歴史ラップ”が入るが、これがノリノリで、歌詞もよくよく聞くとナルホドな、という内容。大化の改新は暗殺ネタでブラック、構図としては蘇我入鹿vs中大兄皇子&中臣鎌足、内容は結構どろどろしてるが、漫才なので、シュールでお笑いな話に聞こえる。桓武天皇、道鏡、最澄のトリオ、道鏡はエロ坊主と言われるが、天皇の愛人になって権勢をふるい、敵対していた一族を抹殺し、自身が天皇となろうとしたが失脚したと言われている(真偽ははっきりしない)。そんなネタもこの『ヒストリーズ・ジャパン』にかかると、ただただ可笑しくなるからある意味、不思議だ。清少納言&紫式部、「春はあけぼのマジやばし」と言ってみたり、『源氏物語』を”日本初のハーレムラブコメ”と言ったりで、なかなか言いえて妙、平安時代の通い婚等、当時の風習もよくよく考えると(写真週刊誌ネタになりそう)……うーん、なるほどと不思議と納得してしまう。それから鎌倉時代の兄弟と言えば源頼朝と源義経、義経は鎌倉幕府が始まったのは自分のおかげとばかりに、何かと「俺だよ」を連発する。一休と足利義満との掛け合い、一休はすぐにアニメでおなじみのポーズ、南北朝時代のゴタゴタをわかりやすく説明、戦国時代の三角関係(御市、浅井長政、柴田勝家)、江戸時代は徳川綱吉と堀田正俊(上司と部下、綱吉とそりが合わずに軋轢を生んだ)、と次から次へと”名コンビ”が登場し、ときには恨みつらみを、時には相手に対して言いたい放題、これがなんだかスカッとする。幕末は西郷隆盛、伊藤博文、山県有朋、廃藩置県の話はナルホド、な内容、幸徳秋水、菅野スガ、大逆事件で検挙された2人、そして戦後、昭和天皇、マッカーサー、吉田茂とまあ、古代から戦後まで怒濤の展開だ。
とにかくダジャレが多く、挙兵と去勢、DHCとGHQ等、このダジャレが細かく随所に散りばめられている。出演者は、全力でバカをやる、どついたり、はたいたり、ボケツッコミは当然のことで、教科書に出てくる人物たちが”生き生きとしている”を通り越して、妙にリアルな感じになる。本当はこうなんじゃないか?という”憶測(妄想)”が観客の脳内にふつふつと沸き上がる。この作品の日本史のラップは楽しい名曲、歌詞も面白いのでここはよく聴いて欲しいところ。
普通ではない、個性的な人々が巻き起こした事件や出来事だからこそ、後世に伝えられる。そんなことを思わざるを得ない、実に面白い作品だ。
ゲネプロ前に簡単な囲み会見があったが、かなりのメンバーが「世界に向けて発信したい」とコメントし、また「日本の漫才界を引っぱっていきたい」(小笠原健)と発言も飛び出し、野望に満ちたコメント多数。日本史漫才、今回登場しなかった人物の漫才も観たくなる。ネタはたくさんあるので、シリーズ化を目指して欲しい。
【出演】小笠原健、寺山武志、森本亮治、畑中智行、小西成弥、早乙女じょうじ、松本岳、ナカムラアツシ、 尾島知佳、西園みすず、小野由香、佐藤蕗子(mizhen)、藤田勇紀
[公演データ]
『ヒストリーズ・ジャパン 2016』
2016年4月12日(火)~4月17日(日)
新宿シアターモリエール
取材・文・撮影/高浩美