バイクを乗り回すシーンや真実の口の“お約束”場面等は映画のシーンが脳内に“アップ”され、二重に楽しめる。そして船上パーティでの楽しいひととき、ジョーとアン王女の別れ、ストーリーは先刻承知でもドキドキの胸キュンなのは、やっぱり名作の力、吉田栄作のジョーは渋くてかっこいいし、朝海ひかるのアン王女は可愛らしくも気品にあふれ、小倉久寛演じるカメラマンのアーヴィングは単純なお笑い担当ではなく2人の様子も見守っているところが何とも言えず温かい。この3人のコンビネーションが絶妙で映画のキャストも素敵であるのはもちろんだが、舞台版のキャストも負けてない。2人はアパートで別れを告げ、翌日の会見で再会する。台詞の中に映画を製作した全てのスタッフ・キャストへの愛と尊敬もしっかり感じられる。ところどころで声だけの川下大洋が存在感を放つ。ラジオの声やラストの会見での大勢の記者(をたった1人で!)等八面六臂な活躍、アン王女に関するニュースを読み上げるラジオ、このタイミングが絶妙で観客の笑いを誘う。ビジュアル的には全体がモノトーンに近い色彩でシックな印象、映像演出も過剰にならずに雰囲気を盛り上げる。船上パーティのシーンでは、ぐにゃぐにゃの人形が登場するがこれが抱腹絶倒で、これを小倉久寛が操る。
ラストはそれぞれが、“元の場所”に収まる。アン王女はつかの間の自由を満喫したが、自分の立場や祖国への思いに目覚め、王女として生きるために帰っていく。それは成長であり、彼女のアイデンティティでもある。ジョーは最初は打算的な発想での行動であったが、次第にアンに惹かれる。最後はアンとの愛を確かめることが出来、彼もまた人としての成長と気付きを得られる。完璧なハッピーエンドではないが、観客の心に染み入るエンディング、ここも映画にひけをとらないシーンに仕上がっている。
登場人物を絞りに絞ったこの舞台、様々なものを削ぎ落した演出と構成は日本の能や狂言に近い発想で、日本人ならではの舞台版「ローマの休日」、再々演であるが、繰り返し上演され続けて欲しい作品だ。