【レポート】ブロードウェイミュージカル「ピーターパン」

撮影:渡部孝弘

視覚的にはフライングのシーンはもう心躍るし、妖精の粉もキラキラして楽しい。海賊たちとピーターパン達の戦いは「ピーターパン、頑張れ!」と応援したくなる。タイガーリリー(宮澤佐江)は文句なくかっこいいし、フック船長(鶴見辰吾)もどこかコミカルで手下のスミー(石井正則)以下、ちょっとお間抜けなところがなんとも可愛く、個性的な連中だ。舞台を縁取る本、映像で本のページがパラパラとめくられる、童話等の本をワクワクしながらめくる、あのときめく瞬間が舞台に“再現”、そこを妖精のティンカーベルがキラキラと飛んでいる。シルエットを使った演出も効果的で影絵芝居の雰囲気も醸し出す。セットもセンス良く、スピーディーに変化する。まさに国際フォーラムの舞台が大きなひとつの絵本のようになって観客に迫る。
ラスト近く、大人のウェンディは少女のウェンディ役が演じる、しかも短時間で子供から大人へと変わるのである。さらにウェンディの娘をダーリング夫人役の俳優が演じる。ここは“演劇”のマジック、ネバーランドから帰って来たウェンデイ、それは成長し、大人になることを選んだのであり、その未来は……そう、死があるのだ。しかし、それもまた“冒険”、死は未知の世界だからだ。しかも空も飛べなくなっており、さらにウェンデイの娘はすんなり空を飛べてしまうのである。その対比が面白く、また興味深い。実は少女のウェンデイ役の俳優が大人になったウェンディも演じるというアイディアは日本初演時でのもの。かなりの演技力が必要とされるが、その点、神田沙也加の芝居は切り替えが鮮やかで違和感も感じない。ピーターパン役の吉柳咲良、もうピーターパンそのものといった風情でリアリティを感じさせる。のびのびと演じている姿は大人の観客はリアルで可愛いキュートなピーターパンに思わず笑みがこぼれてしまうはず。
原作の底力に加えて長年上演され続け、練りに練った演出、その相乗効果で毎年観ても飽きない舞台作品、歴代のキャストそしてスタッフの努力があってこそ、の夏の定番ミュージカルだ。

撮影:渡部孝弘

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2.5news(編集部)

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