【3.0レポート】音楽劇『魔都夜曲』

架空の物語であるが、実在の人物も登場する。川島芳子(壮一帆)、名前は日本人だが、その素性は清の皇族で、本名は愛新覚羅顕㺭(あいしんかくら けんし)、日本軍の工作員として諜報活動を行っていたとされているが、実際に諜報工作をしていたかどうかはさだかではない。謎に満ちたキャラクターを壮一帆が颯爽と妖艶さ醸し出しながら“男装の麗人”ぶりを発揮する。また当時人気絶頂の李香蘭(高嶋菜七、浜崎香帆 Wキャスト)も登場し、舞台に華やかさを添える。
まっすぐで芯のある白河清隆を藤木直人が明るく演じ、表面的には明るく振る舞うが少し陰りのある周志強を小西遼生が的確に演じる。このコントラスト物語の中で要となる。清隆のお目付役の外交官の籾田守(山西惇)、見た目は堅物そのものだが、実は……な設定は意外性たっぷり。怪しいオーナー新田、橋本さとしが軽やかな身のこなしと訳あり風情で物語のアクセントに。キャストが適材適所で、カンパニーに安定感がある。ショータイムをたっぷりと挟み込んでいるが、このショータイムのクオリティも高く、このクラブ「ル・パシフィーク」のショータイムを独立させてレビューにしても楽しそうな雰囲気だ。「夢うつつ、かりそめ」の街・上海、光があれば影もある、アヘン窟も舞台上に出てくるが、目抜き通りは煌びやかでちょっと路地裏に入ると暗く陰湿な街、貧しい人々もしっかり描かれている。1930年代、上海は実際に“魔都”と呼ばれており、アヘンの闇取り引きで巨万の富を築いたギャングもいたくらいだ。
1幕ラスト近く、李香蘭が「蘇州夜曲」を歌う。作詞は西條 八十、作曲は服部 良一、映画「支那の夜」で歌われていた楽曲だ。現在の上海の西、浙江省(杭州)の北、当時の情景を歌ったもの、たおやかなメロディと艶やかな歌声とは裏腹に、その後はどんでん返し、そこは観てのお楽しみだ。

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2.5news(編集部)

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