【3.0レポート】ミュージカル『オペラ座の怪人』

撮影:下坂敦俊

さて、日本で最もよく上演されているアンドリュー・ロイド・ウェバー版、日本では1988年に劇団四季によって上演、回数を重ね、6731回の上演、入場者数は665万人以上(2017年3月現在)、関東での公演は実は久しぶりで2013年以来となる。今回は初の横浜公演となり、その後は広島や京都での公演が予定されている。
プロローグはオークションの場面、オペラ座ゆかりの品々が落札される。その中にはオルゴール、そしてオペラ座のシャンデリアもあった。あの誰もが知っている曲で点滅しながらシャンデリアがゆっくりと上がっていく。それはあたかも時計の針が巻き戻されていくようなイメージ、そして舞台は一転してあのオペラ座となる。ここは実に劇的で観客は「いよいよ始まる」という意識になっていく。
舞台上では上演されるオペラの稽古の真っ盛り。そんな折りに支配人の交代だ。なんだか芸術にはイマイチ興味なさげ、お金儲けにはもちろん関心高し!といった風情だ。稽古の最中、背景幕が落下し、皆は「怪人の仕業」というが、プリマドンナのカルロッタは経営陣の無策ぶりに不機嫌になり、降板すると言い出す。ドヤ顔で威圧的、我儘な“女王さま”だ。さて代役は?と考えあぐねた経営陣、「クリスティーヌは歌の稽古もしてる」という話になり、無名だったクリスティーヌは大抜擢、好評を博す。そんな彼女を熱い眼差しで観ていたラウル・ド・シャニュイ子爵、彼女とは幼馴染で早速楽屋に行き、再会を喜ぶが……ちょっと席を外した短い時間の間にクリスティーヌはいなくなってしまう。怪人にさらわれたのだった……。
全ての楽曲が素晴らしく、ライトモチーフも効果的、オペラのシーンも、劇中劇ということを忘れてしまいそうなくらい多彩だ。1幕に登場する「ハンニバル」「イル・ムート」、そして2幕に登場する怪人が創った「ドン・ファンの勝利」、もう完全にオペラスタイル。
物語は原作に登場するキャラクターを整理し、怪人の叶わぬ恋愛、ラウルとクリスティーヌの関係、劇場のバックステージ話、そういった“ストーリー”が幾重にも重なって厚みのある構成、多重唱を多用し、圧倒的な楽曲と表現力で魅せる。原作は怪奇小説であるが、このミュージカルは原作のテイストを残しながら恋愛を主軸に据えて共感を得やすい形にしている。特に怪人は原作では狂気に満ちたストーカーっぽい風情であるが、ミュージカルでは繊細で傷つきやすいナイーヴな内面故に狂気をはらんでしまうといった感じのキャラクターになっている。設定や舞台セット、フォーメーション等細かいところまで計算され尽くしており、そういったことを挙げるとキリがないが、脇のちょっとしたところまで、全てがラストに向かってまとまっていく。1幕の、あのメロディにのって、怪人とクリスティーヌの船のシーンはあまりにも有名、ラストのシャンデリア落下シーンはやはり最大のハイライトシーンだし、2幕の冒頭、「マスカレード」のシーンは華やか、そして「ドン・ファンの勝利」の息を飲む瞬間、ラスト、怪人が「俺を嫌えばこいつを殺すぞ、選べ!どちらかを!」と迫るシーン等枚挙にいとまがない。
オペラ座という華やかなステージが一転して恐怖スリラーの舞台になる点、欲望と打算が渦巻く人間模様、その対極にある純愛がオペラの調べのように互いに奏で合うところにこの作品の底力がある。俳優陣も歌唱力抜群で、聞き応え満点、瞬きするのも勿体ない!100年後もきっと上演されているに相違ない。

※1 オペラ座 パリにある歌劇場でパリ・オペラ座とも呼ばれている。1875年に完成したガルニエ宮のことを主に指す。1989年にはオペラ・バスティーユが新たに完成し、現在は主にここでオペラ公演が行われている。こちらは新オペラ座と呼ばれることがある。ガルニエとは設計者の名前。工事時代が革命時代だったこともあり殺人事件があったとも言われている。またオペラ座の地下の地盤は地下水が多かったことから水が染出ないように二重三重の隔壁を設けたり、タンクと運河を造って地下水を誘導させていた。
※2 有名なところでは1974年の「ファントム・オブ・パラダイス」が挙げられる。また日本未公開であるが1937年の「夜半歌聲」、これのリメイク版がレスリー・チャン主演、1995年の「夜半歌聲 The Phantom Lover」である。

【公演データ】

ミュージカル『オペラ座の怪人』

2017年3月25日(土)開幕 ~8月13日(日)千秋楽
KAAT 神奈川芸術劇場 <ホール> (神奈川県横浜市中区山下町281)

<広島公演>
2017年9月14日〜2017年11月5日
上野学園ホール
<京都公演>
2017年12月開幕!

■予約方法
ネット予約:SHIKI ON-LINE TICKET  http://489444.com(24時間受付)
電話予約:劇団四季予約センター 0120-489444(午前10時~午後6時)
https://www.shiki.jp/applause/operaza/

撮影:下坂敦俊

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2.5news(編集部)

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