1908年、ウィーン。
人気テノール歌手のディミトリは、馬車の事故で九死に一生を得て以来、体にどこか違和感を覚え始めた。
不審がるディミトリの元に謎の男が現れて「貴方は吸血樹(ヴァンパイア)になった」と告げる。
不意に得た力でずっと欲していた手の届かない令嬢、アニエスカを手に入れようとするディミトリだったが、婚約者に純潔を誓うアニエスカは自らの胸をナイフで突き刺してしまう。吸血樹の力によって、絶命の寸前でアニエスカの肉体を朽ちずに残すことが出来たが、それはアニエスカの抜け殻、魂のない人形同然。
その抜け殻を大切に守りながら、ディミトリの永い旅が始まる。
時は移って100年後の2008年、東京。
高校教師・菊川梓は教え子の好青年生島光哉に言い寄られ、戸惑いながらも彼に傾きつつある心を感じていた。
しかし、思春期の男子の迷い言だと言って逃げるようにタクシーに乗り込む梓。
理由に納得のいかない光哉は追いかけるように同じタクシーに乗り込むが、その車が事故に遭ってしまう。
病院で意識の戻らない梓の元に、100年前と姿が変わらないままのディミトリが現れた。
死神かと訝る梓の意識にディミトリは語り掛ける。「このままでは光哉は助からないだろう」と。
その意図を瞬時に理解した梓は、ディミトリの望むまま自分の魂を差し出し、引き換えに光哉の命を助ける。
素直になれないまま、本当はずっと心惹かれていた光哉。彼が生きてさえいれば、何も惜しむものはないと・・・。
ディミトリに差し出された梓の魂は、100年ずっと眠り続けていたアニエスカの身体の中へ放たれた……。
アニエスカの身体で覚醒した梓は新たにアリスと名付けられ、ディミトリの洋館“静寂館”に暮らすことになる。
その洋館にはディミトリ含め、レオ、礼二と櫂ら4人の吸血樹が同居しており、アリスは「吸血樹の繁殖」への協力を求められる。吸血樹は、繁殖行為を終えるとその一生を終える。
繁殖行為そのものが自らの死を意味するのだ。
種の繁栄のため、より優れたオスを選んで繁殖してほしい、とアリスに迫る吸血樹たち。
未来に残すべき優秀な遺伝子を、じっくり時間をかけて選ぶこととなったアリス。
吸血樹たちとの甘く切ない共同生活が始まる。