想いを残して、そして愛を成就させられない辛さ、この物語に登場する人物は皆、想いを遂げられずにいた者ばかりだ。主人公のディミトリは人気歌手であったがロマ出身だ。どんなに人気があっても身分は低いまま、憧れの令嬢アニエスカはロマの彼には高嶺の花。ある日、馬車にはねられたディミトリは不思議な力を得て想いを貫こうとしたが、婚約者がいるアニエスカは純潔を守ろうと自害する。が、吸血樹の力によって彼女の肉体は残すことは出来た、しかし、ディミトリの心は虚ろだ。それでも一縷の希望を持ちながら彼女を守る。「貴族に生まれていたら……」と思っても詮無い事である。そこに梓と光哉の事故、彼にとってはまたとない千載一遇のチャンスであった……。
その他、双子の櫂と玲二の生い立ちも明らかになる。双子故の苦しい恋と悲しい結末、そんな“サイドストーリー”も泣かせる。一見、理不尽で歪んでいるようにも感じるが、双子故の嫉妬と苛立ちがくっきりと浮かび上がる。
ディミトリ演じる石黒英雄始め、吸血樹(ヴァンパイア)たちは過去の哀しみをそこはかとなく感じさせ、物語の陰影をつける。1人2役の入来茉里、カールした長い金髪がよく似合い、こういった寓話にふさわしいルックス。