『ウェストサイド物語』

『ウェストサイド物語』
〜新演出で、新たな発見のある舞台に〜

20世紀最大にして最高のミュージカル、『ウエストサイド物語』、エネルギッシュで一度観たら忘れられないダンス、名作揃いのナンバー、何度観ても感涙のストーリー、どこを取っても完璧と言える作品である。振付・演出ジェローム・ロビンス、作曲レナード・バーンスタイン、作詞スティーブン・ソンドハイム、台本アーサー・ロレンツ、ブロードウェイ初演は1957年、700回以上のロングランを記録し、1961年には映画化され、世界中にそのタイトルが知れ渡ることになる。日本では劇団四季が上演権を得て、1974年に初上演した。そして今回、新演出となるが、ジェローム・ロビンス財団から選ばれた数少ない公認振付師であるジョーイ・マクニーリー氏が手掛ける。既に出来上がっている作品、どんな新しい風が吹き込まれているのか興味は尽きない。

幕が開き、おなじみのナンバー、セットの高さと奥行きが目に付くが、物語の舞台はNY、都会であるということを改めて認識させてくれる。とにかく全てが完璧に仕上がっている作品であるが、演出の変更部分で「こういう考え方もあったのか」という新たな発見があった。大きく違っていたのはトニーが働いているドックの店のシーンである。今回、店内の様子は描かれておらず、常に”店の外”であった。あの話し合いのシーンですら、である。ドックは「店の外でやってくれ」と少年たちに言うが、それにも関わらず今まで彼らは店内を占拠していた。様々な解釈が出来るが、”迷惑はかけられない”という想いなのだろうか、彼らなりの気の使い方が垣間見えるシーンになっていた。またキーになるシーン、チノが引き出しから銃を取り出すシーンはなくなり、代わりに外で仲間から銃を受け取っていたが、チノだけでなく仲間全員のトニーに対する憎しみが感じられる。また、哀しみにくれるアニータがマリアの部屋を訪れるシーンでは、アニータの衣装が喪服になっていた。従来では衣装はそのままであったが、黒ずくめにすることによって彼女の深い哀しみがビジュアル的にわかるようになっていた。さらにマリアのショールは従来のはレースだったが、今回は黒と紫のリバーシブルでアニータはショールを黒を表にして被って部屋から立ち去った。彼女の心情だけでなく、これから彼女の身に起こる不幸な出来事をも暗示させているように思われる。

舞台転換も今までよりスピード感があり、テンポよく進む。いろいろと”変更”があっても作品そのものは何も変わらず、観客に深い感動を与えてくれる。キャストも若手中心の布陣でありながらよく健闘、若さと勢いのある舞台になっていた。特にマリア役の山本紗衣はよく伸びるソプラノを聴かせてくれたし、トニー役の神永東吾は初々しい感じが恋愛に不慣れな純朴なキャラクターとシンクロして好感が持てた。

発表から半世紀以上が経過しているが、全く古くならずにミュージカル史上に惨然と輝く作品、初演から100年という節目もそう遠くはない。

■公演DATA
2016年2月14日(日)~5月8日(日)
四季劇場[秋]
https://www.shiki.jp/applause/wss/

取材・文:高浩美
撮影:下坂敦俊

2.5news(編集部)

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