『薄桜鬼〜新選組奇譚〜』は2008年にアイディアファクトリー(オトメイト)から発売された恋愛アドベンチャーゲームである。様々にメディアミックスされているが、初の舞台化は2012年4月。斎藤一篇と銘打ち、その後、新選組の誰かにフォーカスした内容で、その後、沖田総司篇(2013)、土方歳三篇(2013)、風間千景篇(2014)、藤堂平助篇(2015)と発表してきた。また、LIVEも実施(2014)、人気シリーズとしてファンの間に定着した。2015年の6月公演は”黎明録”とし、新選組の主要キャストを一部若手俳優にチェンジ、新選組となるまでの物語を描いた。この2016年の公演は、”黎明録”の後のストーリーである”新選組奇譚”、有名な池田屋事件、大政奉還、明治時代の幕開けといった史実に『薄桜鬼』ならではのフィクションをクロスさせている。
この作品の面白さの根源は、史実とフィクションのクロスのさせ方にある。登場人物も多少誇張されてはいるものの、史実で伝えられている人物像が元になっている。また、この作品は”本当のところはどうだったのか”といった歴史そのものに興味を持たせる側面もあり、いわゆる”聖地巡礼”をするファンも多い。恋愛アドベンチャーゲーム故、ファンは女性が大半を占める。いわゆる”歴女”、歴史上の人物がアニメやゲームのキャラクターとして親しまれているようになり、このゲーム『薄桜鬼』のヒットと歴女ブームは決して無縁ではない。しかも新選組は歴史上ではむしろ”負け組”だ。日本人特有の”判官びいき”気質も作用している。もちろん、アニメやゲームで描かれる以前に新選組を扱った小説は息の長いロングセラーだ。こういった背景がミュージカル『薄桜鬼』のヒットに繋がっており、しかも”ミュージカル仕立て”、隊士がロックな楽曲に合わせて歌う、踊る、アクションを見せる、といった”荒唐無稽”な舞台作品だが、むしろ、この弾け方がシリーズ化の秘訣ではないだろうか。
今回のシリーズの特徴だが、見た目としてはダンススタイルにある。昨今、次から次へと新しいコリオが生まれている。そういったスタイルをいち早く取り入れており、初期のシリーズと比較するとポップな印象になっている。直線的な手の動き、ステップ、曲線的なバレエを基本としたジャズダンスやモダンダンスではない。着物の直線的な袖や袴を考えると、こういったコリオは意外なほど親和性があるように感じる。そしてもうひとつ、ミュージカルに欠かせない音楽、ロック調、J-POP調等、多彩な楽曲が用意されている。また、芝居の場面ではほぼずっと何かしら音楽が奏でられていたのが印象的、これは歌舞伎でよく聴く下座音楽の手法だ。例えば『オペラ座の怪人』等に代表されるミュージカルは台詞も”歌”になっており、形式的にはオペレッタに近い。このミュージカル『薄桜鬼』は輸入されたミュージカルの手法に日本の歌舞伎の下座音楽の手法を上手く掛け合わせているところが実に”日本的”である。
今回のキャストは全て初役という訳ではない。土方歳三役の松田岳は今回初参加。2012年のミュージカル『忍たま乱太郎』で本格的に俳優デビュー、翌年に『仮面ライダー鎧武/ガイム』にレギュラー出演、熱い演技で土方を演じていたのが印象的であった。雪村千鶴役は藤社優美、歌も可愛らしくのびやかに歌っており、千鶴の一途さにふさわしく好感が持てる。沖田総司役の荒牧慶彦は黎明録から、斎藤一役の橋本祥平は藤堂平助篇から、藤堂平助役の小澤廉、原田左之助役の東啓介、永倉新八役の猪野広樹は黎明録篇からの参加である。初演からの風間千景役の鈴木勝吾は当たり役。息の長いシリーズ、今回は旧キャストの貫禄と新キャストの勢いが融合、ここからミュージカル『薄桜鬼』が進化することだろう。
ミュージカル『薄桜鬼』新選組奇譚
東京公演/2016年1月4日~1月11日 天王洲 銀河劇場
大阪公演/2016年1月15日~1月17日 大阪メルパルクホール
http://www.marv.jp/special/m-hakuoki/
取材・文/高 浩美