客席通路から登場する男娼・水仙、彼を追う男、夜来香、「どこへ行くんだ?」、舞台中央にはベッドとおぼしきもの、「俺以外、誰もいない」という水仙、そして夜来香と身体を重ねる。ここに流れる曲は「夜来香」※、この歌は男性が憧れの女性を「夜来香」という、夜に芳しき香りを放つ花に喩えて想う気持ちを歌ったもの。この2人の感情を象徴的に表現している。この優雅な甘いメロディ、しかし、舞台上ではリアルに2人が身体を重ねている、という衝撃的な出だしだ。それから場面は一転する。この甘い美しい音楽はピタリと止まり、雑踏の音、これが現実なのだ、ということを見せてくれる。中国の、どこかの地方都市の路地裏、猥雑で、さして豊かではなく、登場する男女は刹那的、皆、“幸福”を求めている。完全なる絶望、という訳ではないが、この緩やかな絶望は、登場人物たちの心を、感情を支配する。このじんわりとした空気、ここにいる男女は知らず知らずのうちに侵されていく。刹那的な瞬間、他者と関わり、そして感情が、心が通い合う。男娼・水仙は夜来香に惹かれつつも、男娼という立場だからなのか、どこかクール、しかし後半は熱いところを見せる。薔薇(平田裕香)が刺(谷口賢志)に暴力を振るわれるのを身体を張って守ろうとする。そして夜来香は水仙に惹かれつつも、悶々とした感情を抱きつつ、心彷徨う。夜来香は男娼の真似事をして水仙の心を理解し、深く関わりを持とうとするのだが…。