会場にはセットと思えるものはほぼないに等しい。発泡スチロールで作った砂の色をしたボックスがいくつかある。観客席にはヘッドマウントディスプレー(HMD)が置かれておりコントローラーが2つ置かれている。このHMDをかぶり、両手でコントローラーを持って“観劇”をする。まず、旅客機の客室乗務員風の2人が登場し、このHMDの装着方法を説明する。それから装着し、“本編”が始まる。被って準備万端、飛行機の操縦席に座った気分にさせる映像、離陸、風が起こり、もう気分は操縦士、そしてある場所に不時着するのだが、椅子も揺れる。“降り立つ”とそこには少年が、そう彼こそがこの物語の主人公、星の王子様だ。観客はさしずめ物語の飛行士で、星の王子様はしきりに話しかける。飛行士役の俳優の声が響くので、観客自身は台詞を言う必要はない。それから一旦、HMDを外し、再び、クライマックスに向けて装着するのだが、ここでコントローラーを持つ。映る景色は、リアルに踊るダンサー、そして青い羽根に無数の星、このコントローラーを振ると青い羽根が動き、コントローラーのボタンを押すと星が出てくる。それと調和しながら俳優陣が歌い踊る。ファンタジックな上にリアリティーのある光景が眼前に迫る。実は他の観客が振っているコントローラー=青い羽根も映ってるので席によって見え方が変わり、しかも自分のコントローラーの動かし方によって星の出方が違うので、観客は誰1人として同じ光景を観てない。つまり、個別にこの“ハイテクな企み”に参加しているのである。観客参加型の演劇、サイリウムを振って応援する、スマホで投票し、物語のエンディングを観客が決める、といったものがあるが、これもまた、観客参加型、しかも物語に入り込むことの出来るユニークなものである。ラストは立体的な地球が眼前に!今度は宇宙船にいる気分になり、ここで終了。遊園地のアトラクションではなく、あくまでも演劇、しかも物語の主要人物を“体感”、まだ“初演”なので試行錯誤の部分もあるようだが、いずれにしてもエキサイティングな試みだ。