2025年11月7日(金)東京・明治座にて開幕を迎える、『醉いどれ天使』。
日本をはじめ世界中に大きな影響を与えた名匠・黒澤明と、その多くの作品で主演を務めた三船敏郎が初めてタッグを組み、戦後の混沌とした時代に生きる人々の葛藤をいきいきと描いた映画「醉いどれ天使」は、公開された1948年4月から約半年後、ほぼ同じキャストとスタッフが集結し、舞台作品として上演されたという記録が残っています。
当時の舞台台本が近年偶然にも発見され、2021年に舞台化。そして、新たなスタッフ・キャストにより、2025年舞台版『醉いどれ天使』が上演されます。
この度、本作で美代役を務める佐藤仁美さんにインタビューを実施。
役作りについてや、本作への意気込みを語っていただきました。
舞台が立て続けにあったので、難しそうな話かつ稽古日数が少ないのもあり、最初は出演するかどうか迷いました。迷惑をかけるかもしれないと、すごく悩んだ結果、こうした作品に出演したことがなかったのでチャレンジしてみようと思い、出演を決めました。
本当に男くさく、人間くさく、情がありすぎる作品だと感じました。女性の方が弱いように見えるけど、芯がすごく強くて、男の人を引っ張っているようなイメージがあります。
私が演じる美代という役は、最初は男性が守りたくなるようなほんわかしたイメージがありましたが、台本を読んでいくうちに、どこか脆いところを隠しながら生きている女性の方が、男性は惹かれるのかなと。ぎん(松永の幼馴染)とかは関係性がしっかり描かれているのですが、それに比べると美代は説明はあってもシーン数がそんなに多くないので心情を語ることが少なく、感情が難しいんです。その場ですぐ場面が変わったりするので、そこに至るまでの過程など、描かれていない部分を想像するのが忙しい役柄なので、どう表現していこうか考えているところです。
基本的には台本を読んだイメージで役を作っていきますが、最初から決めすぎてしまうと演出家の意図をもらった時に対応ができなくなってしまうので、なんとなくの形で稽古に行きます。そこで皆さんのお芝居を見て、演出家の意見を聞いてから徐々に作り上げています。
美代という役は、最初は松坂慶子さんのような、口調が柔らかくて女性らしい人物をイメージしていました。だけど掘り下げてみたら、重いものを全部背負いこんでいるような人だったので、全然印象が変わりました。
稽古の仕方が、これまでとは全然違っていて。この作品では、演出の深作(健太)さんが1個1個進めていくごとに「こういう感情で」と細かく説明してくださるんです。今までやってきた舞台は、通した後にみんなで教え合ったり、ディスカッションをして進めていく形が多かったので、このスタイルでやるのは初めてで。他にも、戦後と言いつつもエレキギターやロックがあったり、心情を語る時にスタンドマイクを使うなど…そうした演劇も初めてなので、いま戸惑っているところです(笑)。
(取材時は)まだそんなに稽古への参加ができていないので、ずっと頭の中がいっぱいいっぱいではありますが、みんなのリズムを崩さないように動きを入れて、そこから乗っていく作業をします。
演じ方に関しても、自分の想像と全く違っていたりするところもありました。でも自分の意見も捨てたくないので、深作さんの意見7割に、自分の意見もバレないように3割くらい練り込みながら、皆さんに追いつこうと必死にやっているところです。
私から見たらもう出来上がっている中に参加させてもらっているような感覚なので、稽古は全然楽しくないです(笑)。製作発表で横山由依ちゃんが「楽しくてしかたがない」と言っていたり、岡田結実ちゃんは「先輩教えてください」と言ってくれるんですけど、私はまだ飲み込めていないので「ちょっと時間ちょうだい!」っていう。若い子がいる現場なので、先輩の芝居を見たいという空気感がすごく伝わってくる、そんなプレッシャーもあります。
ヤクザもので、黒澤明さんの作品となると、気難しいのかなと1回身構えてしまうと思うのですが、人間らしい、人間くさい人間模様というのが面白いところだと感じています。いろんな人のエピソードがあり、それぞれのバックボーンが大きくて、何回観ても面白いと思ってもらえる、見どころもたくさんある作品です。
昔の歌とか、今も誰かがカバーして歌ったりして、ずっと続いていく。同じようにお芝居も、映画から舞台、舞台からドラマになったり、こうして受け継がれていく作品はメッセージ性が強いんだなと感じています。
あとは、どの人物もメッセージ性が強くありますが、ただやられているだけの女性ではなく、芯の強い女性はかっこよくて美しく、儚いというものを届けたいです。
若い頃、何回か辞めようかなと思ったことがあったのですが、25歳の時にこの世界でしか生きていけないと思ったので、芯といえばそこかなと。25歳を過ぎたら他の仕事にチャレンジなんてできないと。今の25歳の子たちには「なんでも出来るじゃん」って言えるんですが、当時の私はそういう考えで、この世界1本で生きていこうって決心しました。
そこから視野も広がって。役者は無駄な感情が1ミリもないので、泣いたりどん底に落ちても、いつかなにかに使えるかもしれないと、無意識のうちに感情を取り込もうとすることが、大人になるにつれて徐々に増えていきました。いろんなことに興味を持つようになりましたし、周囲を見回してなにか得ようとする、職業病になりました(笑)。
舞台はひとつのことを何ヶ月も何十回もやるので、ひとつの役を集中してやれるのが良いところです。ドラマや映画は瞬発力が必要で、舞台ほど役を突き詰める時間がないのですが、舞台は公演を重ねることで新しい発見が常にある。また、お客さんが目の前に居るのも舞台ならではで、ここで笑うんだ、ここで泣くんだとか、感情を直に受け取れるのも面白いところだと感じています。
ただ、今までは舞台は好きだけどコメディのようなふざけた作品しか出たくなくて、こういう作品は避けてきたんです。なんでこの年齢でこんな難しい作品出ちゃったんだろう(笑)。これはもう、神様がやれって言っているんだなと思っていて。いつもは多くても年に2本くらいしか舞台をやっていなかったのですが、今年は4本もやっているんですよ。ずっと芝居の勉強をしているな、試練を与えられていると感じて、この作品に挑んでいます。
45歳最後の作品がコメディで、46歳最初の作品が本作になります。もう大人だからしっかりとしたお芝居の演劇をやりなさいということなんだなと(笑)。1発目として、私はいい作品に出会ったなと感じております。
私は目標とかは持っていなくて。繋げるというより、それを見た誰かに気に入ってもらえれば良いなと。目の前にあることを一生懸命やるだけです。
いろんな人間模様があり、誰を見ても、どこを見ても面白く、意外と共感できる部分があったり、周りに似た人がいる。そんな飽きないお話になっているので、楽しんでいただけたらと思います。
ヘアメイク/藤田響子
スタイリング/西脇智代
衣装協力/OSEWAYA、OTONA
原作:黒澤明 植草圭之助
脚本:蓬莱竜太
演出:深作健太
出演:北山宏光
渡辺 大 横山由依・岡田結実(Wキャスト) 阪口珠美 / 佐藤仁美 大鶴義丹
※Wキャストの出演スケジュールは公式HPにてご確認ください。
東京公演:2025年11月7日(金)~23日(日) 明治座
名古屋公演:2025年11月28日(金)~30日(日) 御園座
大阪公演:2025年12月5日(金)~14日(日) 新歌舞伎座