源平合戦と「男女の対比」描く壮大な一大絵巻 世界初演の新作オペラ『平家物語-平清盛-』オフィシャルレポートが到着!

平家の栄枯盛衰を描く日本文学史上の大傑作が原作のオペラ『平家物語―平清盛―』(作曲:酒井健治、脚本:田渕久美子)が10月4・5日、埼玉・大宮のソニックシティでいよいよ世界初演を迎える。前日の3日には、注目の新作オペラのゲネプロが公開された。その熱気に満ちた会見とゲネプロの様子を速報リポートする。

ゲネプロに先立ち開かれた記者会見では、関係者や出演者がこのオペラにかける意気込みを語った。酒井は「現代を生きる僕たちがどう平家物語を受け止めるか考えていたが、昨今の世界情勢の変化が僕に力を与えてくれた」と話し、平家物語を「普遍的」な物語に昇華できた自信をにじませた。

物語の語り部となる琵琶法師役を務めるFANTASTICSボーカルの八木勇征は「マイクを使わない歌手の声量、身体を楽器のようにして歌う歌手のすごさを感じた。自分の中でも響く感覚があります」と、初のオペラ出演を前に興奮気味に語った。

この日の公開ゲネプロには、関係者や報道陣の他、地元の高校生なども招待された。この物語の第一幕は琵琶法師の語りから始まる。「祇園精舎の鐘の声」で始まるあまりにも有名な平家物語の冒頭文と酒井の音楽、いきなり源平の双方が登場する田渕の脚本が絡み合い、今後の劇的な展開を予感させる。抑揚をつけた存在感のある語りが印象的な琵琶法師役の八木はオペラ初出演だが、この物語のキープレーヤーといえる役柄である。

第一幕では、平家、とりわけ平清盛(池内響)が太政大臣となって権力を強大化していく過程と清盛の妻である時子(池田香織)、娘の徳子(川越未晴)を軸にした女性視点が貫かれる。高揚する清盛に対し、不安や懸念を隠さない女性たち。田渕の脚本の妙は、戦や権力争いに明け暮れる男とその裏で地に足の着いた平穏な暮らしを志向する女性の対比にある。酒井の音楽は源平合戦の激しい抗争と男女のすれ違いや対比を上手く音楽に落とし込み、魅惑的、蠱惑的な雰囲気を現出させる。

舞台は朱色の階段と背後の月を基調とするシンプルな構成だ。演出の田尾下哲は逆にそのシンプルさを生かし、登場人物の歌唱や酒井の音楽を効果的に見せていた。ソニックシティの舞台の大きさにより、装置がシンプルでも「グランドオペラ」のような印象を受けた。

さらに第一幕では、高倉帝(新堂由暁)の妻となった徳子が男子を産む場面がハイライトとなる。男子が生まれることで、清盛は将来の帝の祖父となり、さらに権力を持つことになる。清盛の強大化に危機感を感じ、後白河法皇(木村善明)はついに清盛と平家の討伐を息子である高倉に告げる。ここで酒井の音楽も不協和音や不規則なリズムを織り交ぜながら、一気に風雲急を告げる。清盛の「驕り」を巧みに表現する池内と後白河の低音による「圧」が際立つ木村、そして徳子の悲しみを帯びた歌唱が「男女の対比」をさらに際立たせる。

続く第二幕は「平家にあらずんば人にあらず」の児童合唱から始まった。ここでも冒頭は物語を掘り下げる八木の語り。清盛が後白河を幽閉し、平家が国の政を牛耳るさまが描かれる。源氏の生き残りを追い詰めて僧兵を退け、民を苦しめる平家に対し、源氏がついに立ち上がる場面は印象的だ。

源頼朝、源義経の兄弟が「平家を滅ぼすことが使命」と決起する場面は、物語のさらなる激動を予感させる。頼朝はかつて父の義朝が清盛に討たれた際、時子や徳子に命を助けられた恩義を忘れていなかったが、「恩を仇で返す」決意をする。

源氏の蜂起に対する平家の動揺ぶりは平家物語の原作でも描かれるが、オペラでも有名な「水鳥の飛び立つ音」で退却する平家の慌てふためく様子が表現された。田尾下哲はこの場面を強調し、平家の滅亡への道を示唆するかのような演出を見せた。

清盛は平家の敗走に激怒し、僧兵が決起した興福寺を容赦なく焼き討ちするなど狂乱する。「神も仏もあるものか」。もはや妻の時子の諫言は耳に届かない。男は戦を終わらせることができず、巻き込まれるのはいつも女性や子ども。ここでも田尾下の演出は田渕の意向に沿い、「男女の落差」を強調していた。

清盛と時子、徳子の「男女の落差」を軸に展開する物語は、原作の平家物語とは違い、清盛の壮絶な死によって終止符が打たれる。平家物語の結末を知っている我々は、ここには何の希望もなく、絶望だけが残るように思う。だが、田渕や田尾下は最後に女性に希望を託す。愚かな世の中を終わらせることができるのは女性だと。絶望からの救済。意外にも、前向きな気持ちでゲネプロの終わりを見届けることができた。

コメント

■池内響/平清盛役
平清盛の正義、悪、生き様など、今回のオペラ作品を通して清盛は勿論のこと、平家物語の世界をどの ようにお魅せするか。このチームだからこその、ここでしか観られない平家物語を楽しんでいただければ幸いです。

■川越未晴/平徳子役
栄華と滅亡を背負い、女性として、母として、ひとりの人間として気高く生き抜いた徳子の想いや葛藤が現代にも響くよう、凛とした強さと優しさを込め、真摯に歌い届けたいです。

■八木勇征/琵琶法師役
オペラというジャンルの舞台に上がらせていただくのは人生で初めての経験です。 名だたるオペラ歌手の皆様とステージでご一緒させていただき、貴重な時間を得ることができ大変光栄に思います。 語り部と殺陣が物語の一部になっていくのですが、そこでお客様が更に世界観にグッと入り込めるようなお芝 居や表現をしていきたいと思いますし、演じるのが凄く楽しみです。また、昔の世界観に飛び込むような経験 をずっとしてみたいと思っていたので、リハーサルの段階から得られる経験値がどんなものなのか凄くワクワクしています。

公演概要

新作オペラ『平家物語-平清盛-』

【公演日程】
会期:2025年10月4日(土)〜10月5日(日)
会場:ソニックシティ大ホール
公式サイト:https://www.sonic-city.or.jp/heikemonogatari.html

会期:2025年11月1日(土)〜11月2日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール
公式サイト:https://www1.gcenter-hyogo.jp

【キャスト】
■池内響/平清盛役
■川越未晴/平徳子役
■八木勇征/琵琶法師役
■池田香織/平時子役
■林眞暎/前子役
■村松稔之/源義経(牛若丸)役
■小堀勇介/源義朝役
■工藤和真/平重衡役
■新堂由暁/高倉帝役
■高橋宏典/源頼朝役
■木村善明/後白河法皇役

【製作陣】
脚本:田渕久美子
作曲:酒井健治
指揮:下野竜也
演出:田尾下哲
演出補:砂川真緒
美術:松生紘子
照明:稲葉直人
衣裳:時広真吾
ヘアメイク:我妻淳子
音響:山中洋一
殺陣・時代劇所作指導:滝洸一郎
振付・所作指導:花柳真寿輔
合唱指揮:冨平恭平 矢野雄太
舞台監督:山田ゆか

Rie Koike