バンドに誘われるエピソード、直貴が好きなジョン・レノンの『イマジン』がことあるごとに語られる。『イマジン』はジョン・レノンの代表作、その中で歌われる内容は理想、この作品の中ではそれは永遠に実現しないことを強調する“ツール”として効果的に出てくる。劇中では決して歌われることはないが、観客の脳内ではレノンの歌声が流れる。舞台の天井近くに青空、時として希望の象徴として描かれることが多いがこの作品では、“ただ、そこに空がある”ということだけだ。原作のエピソード、省略するところ、クローズアップするところをクリアーにさせることによって作品のテーマをより強調させる。慟哭のソロ、哀しみ、苦しみのデュエットは観客の心をゆさぶる。直貴役はWキャスト、太田基裕で観劇したが、最初は兄想いの優しい弟であったが、次第に差別に苦しめられ、苦渋の決断をする瞬間は主人公の心の機微を表現しており健闘。兄役は吉原光夫、武骨で純粋に弟を思って手紙を書き続け、ラスト近く、慰問に来たバンドに弟を発見し、手を合わせるところはその複雑な、しかし弟の健在を知った心情を全身で表現、感涙。最後まで直貴の友人であり続けた寺尾祐輔演じる藤田 玲ほか、キャストも役柄によくハマり、東野圭吾原作の『手紙』の登場人物が生き生きとリアルに舞台に登場したように思わせてくれる。
2025年2月をもって、建て替…